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最近、眠くて仕方がない。眉間を押さえてコーヒーでも飲もうかと思って訪れた休憩室には、思っても居ない人物がいた。私の学生時代の後輩と付き合っている赤司征十郎くんが立っていた。どちらも、小さく礼をする。けれど、特に話したことがあるわけでもなくて、話すことも無く私は彼の隣りにあるカップを手に取り、コーヒーを注いだ。

さて、ここまでは普通だった。誰もがすること。けれど、どうも状況がおかしい。私は赤司くんによって壁に押さえつけられていて、コーヒーの入ったコップは倒れて床に零れている。
彼を怒らせるようなことをしたつもりは、ない。なのに、どうしてこうなったのだろう。私はただ、静かな空間が苦手だったしうちの会社で話題の赤司くん、後輩の彼氏の赤司くんと少しだけでも仲良くなりたいと思って、あの子とはどう?なんて聞いただけなのに。

「…赤、司くん?」

オッドアイの瞳が真っ直ぐと私を見る。彼は何も言わずに、私の手首を掴む力を強くした。痛くて顔を歪めると、彼は俯いた。もう一度赤司くんの名前を呼べば、被せるように弱々しいような声で、上手くいってるとでも思う?、と言う。ああ、落ち込んでてこんな行動に出たのか。なんて少し気を許してしまって、それが仇となった。

「もともと彼女なんか好きじゃない」
「…どういうこと」
「君に近づくためさ」

俯いた顔を上げた赤司くんの顔は、私の背筋に悪感が走るほどの怪しい笑みで。逃げないと。私がそう考える前に、赤司くんの行動の方が速かった。
彼の唇が私のそれに押し付けられる。やめて、と声を上げようとした隙に、ぬるりとした生暖かいものが入り込んで。酸素を奪うようなキスが続いた。苦しい。彼にそう訴えても、聞く耳なんて持ってない。がくがくと膝が笑って、耐え切れず足から力が抜けてやっと解放された。

けれど、それはもう手遅れだった。酷く傷ついた顔をするあの子がガラス越しにいて、私を、彼を見ている。もう逃げられないよ。赤司くんがそう言って笑った。そうしてまた、私の酸素が奪われていく。

砕けた六等星の欠片
もう引き返せない

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アウトオブエデン/Kouhei様 feat.鏡音レン