thanks | ナノ
部活がせっかくの休みだから、一緒に出掛けたい、と毎日のように懇願する彼に溜息一つで了承した木曜日。出掛けるためには連絡先が欲しい、と言い出したからメアドを交換した金曜日。時間と待ち合わせ場所をメールしてもらった土曜日。
そして、今日、彼と会う日曜日になった。
今から行く、というメールを見て画面を暗くする。しばらくして黄色の髪を靡かせた彼が私の名前を呼びながら走って来た。すれ違いざまに女の子たちが振り返っているのは見ないことにしよう。


「遅くなってスマセン!」
「別にいいけど…、何処行くの?」
「えっと、おいしいケーキが食べれる場所があるんスよ」


ケーキ、という単語が聞こえてすぐに行こう、と私が答えるとにっこりと笑顔を見せた。それから手を握ってきて、人が多いっスから、と言うから仕方なくそのままにした。
彼に連れられて来たお店は、雑誌でもテレビでも紹介されたことのあるお高いお店。やっぱやめる、と足を止めた私に首を傾げると、俺の奢りっスよ?と笑う彼にイラっとした。そりゃあ、モデルなんてしてたら余裕だろうけど。意識してるわけじゃないんだろうけど、自慢っぽく聞こえるのが彼の特徴だろう。何度も、いい、と言ったけれど結局私が折れて店の中に入ることになった。メニュー表には、普通は300円くらいのものがその2倍以上もする値段で書いてあって、冷や汗が出る。


「どれにするっスか?」
「…これ、」


この中で一番安いメニューを指差すと、にこりと笑って了解っスと言った。彼のことだから、もっと高いものでもいいよ、なんて言うのかと思ったけど…。彼も人間だ。きっとお金が惜しいはず。
可愛らしいエプロンを着けた店員さんに、私が頼もうとするといいっスよ、と掌を私に向けて、彼がスラスラと頼んでいく。カフェモカとコーヒーと…、という彼の声を聞きながら何度もこの店に来たことあるのかもしれないという手慣れた感を感じる。


「あと、ケーキセット。以上で」
「え?」
「どうかしたっスか?」
「だって、ケーキセット黄瀬くんが食べるの?」


ぱちぱちと何度も瞬きをして彼を見れば、へにゃりと情けない笑みを見せて、まさか、と笑った。慌てて、私はいらないよ、と伝える。ケーキセットがどういう物なのか分からないけど、これを見る限り高いことだけは分かる。だって、3500円なんて…。ケーキが6個しかないのに、その値段って。本当に、人気モデルって怖い。

カフェモカとコーヒーと、ケーキセットです。
店員さんの声と共に目の前に出されたのは、ハートの可愛らしい絵が描いてあるカフェモカと、テーブルの中央にはバラなどの花をモチーフにしたティースタンドにいくつかのケーキ。わあ、と声が出た私を向かい側に座っている黄瀬くんはニコニコと見ていた。


「好きなの食べていいっスよ」


口を一つに結んで、いい、と言うと困った顔で笑って、でも捨てるだけだから、と言う。小皿にケーキを一つ取ると、フォークで切ってそれを私の口まで持ってきて食べさせられた。ふんわりと甘く広がるケーキに、自然とおいしいと漏れた。おいしいっスよね、と笑う黄瀬くんに恥ずかしくなって、うん、と余所を見て頷いた。

ストロベリーフィールド

(どうしても名前っちに食べて欲しかったんスよ)(どうして?)(だって、可愛い笑顔が見たいから)(黄瀬くんって、手慣れてるね)(え?!)

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