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清志くん、と語尾にハートがついたような可愛らしい声が体育館内に響いた。どうやら、また宮地サンの同級生が来たらしい。練習中に女子が来ることはあるし、今だって二階で見てる人もいる。宮地サンの名前を呼んで気を引こうとする女子だっていた。でも、どの女子も相手にせずに練習に取り組む宮地サン。そんな宮地サンの気を引く唯一の人、苗字名前サン。大坪サンと同じクラスだとか。

「てめぇ、来んなっつただろうが。轢くぞ」
「そう言ってキヨちゃんは優しいから、轢かないもんねぇ」
「黙れ。よし、じゃあ木村に軽トラ借りてくるわ」
「わっ、ドライブ?誘ってくれてるの?!」

宮地サンのどんな言葉にも、プラスに考える苗字サンってハッキリ言って尊敬するわ。あんなタイプだったら真ちゃんのことも気に入りそうだな。宮地サンだって、満更でもないんだろうなー。だって、大坪サンが苗字サンに話しかけに行ったら、ちょっと怖い顔したし。
見てくか?と聞いた大坪サンに、首を振って笑う苗字サン。珍しい。いつもは、見てく、と楽しそうに返事をして宮地サンに飛びついてるのに。

「どっか用事か?」
「うーん…そんなところ」
「…まさか」
「そう、そのまさか」

二人だけしか分からないような会話をしていて、分からない。宮地サンもイライラしてるし。うーん。先生に呼び出された、っていう用事なら今までもあったし、それは普通に言ってたから…。あ、もしかすると、告白の呼び出し?苗字サン、可愛いしねー。あーらら、宮地サン取られちゃうよ。

「おい」
「宮地くんが私に用事…!」
「見てけよ」
「え、うん。そうしたいんだけどさぁ、ちょっとね…っえ、ちょ!?」

ぐい、と勢いよく苗字サンを引っ張ると、ベンチまで連れてきて肩を押して座らせた。うっわー、すっごいなー宮地サン。腹を抱えて笑っていれば、ボールが頭に飛んできた。っぶねー、俺がホークアイじゃなかったら死んでるっすよ。

「黙れ高尾」
「何も言ってませんよー」

へらへらと笑っていれば睨まれる。ほんっと、宮地サンは素直じゃないっすねー。清志くん、と言って可愛らしい笑顔で宮地サンに抱き着いた苗字さん。きっと、嬉しかったんだろうなぁ。そんな苗字さんを、うぜぇ刺すぞ、と言いながらも無理やり退かそうとしない辺り、宮地サンらしいなぁ。

なんて。

天王星を飛び越えた
(あークソ!離れろ轢くぞ!)(もうちょっとだけ!)(…はあ)(ふふ、清志くんカッコイイねぇ)(うるせぇ黙れ)


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