thanks | ナノ
ワガママ?自分勝手?どうして私がそんな言葉を言われなきゃいけないの?いつだって私は我慢をした。苦しくたって、平気なフリをしてたのに。私のこと、何にも知らないくせに。


大好きだった両親は、私が小学校に上がる前に離婚をした。母の方に引き取られて、父と会うことも許されぬまま二年が過ぎた時、母はある男の人を連れてきた。時期に結婚をした。私の三つ目の苗字だ。だけど、半年も経たぬうちに離婚をして、それからまた新しい人と再婚をした。四つ目の苗字。それも続かず、また別の人、別の人、別の人。たくさんの父が出来て、たくさんの苗字が出来た。
そして、九つ目の苗字が出来た時には、私は中学三年生になった。母も本気でその人の事が好きみたいだったし、その人も母の事を本気で好いてくれてると思った。これで、私はこの苗字に納まるんだと安心もした。けれど、そんなのは最初だけで、ある日私の部屋に現れた義父は私を強姦しようとしたのだ。背筋がゾっとした。必死で抵抗して、その物音に駆けつけてくれた母に助かったと安心したのだ。
けれど、それが間違いだった。叩かれたのは私で、汚い物を見るかのような目で私を見降ろした母は、私なんかいらないと言った。
それから直ぐに、会っていなかった父に引き取られた。最初の苗字に、最初の地元に戻ったのだ。


穂稀高校での生活は、そこまで苦ではなかった。ただ、笑顔を作るのが辛かっただけ。どうせ誰も私を見てくれてないってことを思い知らされるようで。そんなある時、いつも一緒にいたグループの一人から校舎裏に来てほしいと言われる。あのことか、と既に分かっている私を待ち構えていたのは、その一人だけではなくグループの子全員だった。
自分の彼氏を誘惑しただのと罵声を浴びせられ、やっぱり、全部上辺だけだったんだ。いつだって、呼び出しの内容はそうだった。どれも同じで、どれも私が悪者で。ある程度の暴力をふるえば消えて行く背中を見て、もう、何も出てこなかった。


「…大丈夫ですか」


膝を抱えて座り込んでいれば、この学校で人気の浅羽くんが私を見降ろしていた。大丈夫、といつもの笑顔で言ってその場を去ろうとすれば腕を掴まれた。ぞわりと背筋に嫌なものが走って、気持ち悪い汗が滲み出た。…この体が覚えている、あの時の事を。バチン、と音を立てて払えば沈黙が出来た。ご、ごめん、驚いたから…とまた笑顔を作った。


「…辛くないですか、無理に笑うの」
「……っ」
「苦しくないですか、疲れないですか」
「な、んで…」


なんで、あなたに分かるの。出てきそうになった言葉を飲み込んで、無理なんてしてないよ、と嘘を吐いた。辛いよ、苦しいよ、助けて。たとえ私の心が悲鳴を上げようとも、言葉にしたら…。


「俺には、辛そうに見えます」


ほっといて(ほっとかないで)
辛くなんかない(辛い)
悲しくなんか、ない(悲しい、苦しい)

私の口から出て行く言葉はどれも嘘ばかりで、それでも浅羽くんは何も言わずに聞いてくれた。泣きだしても、目を逸らすことも、嫌がることもしなかった。嗚呼、今なら言えるかもしれない。この人になら、届けられるかもしれない。


   


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リクエストありがとうございました。アイロニがとても好きな歌でしたので、大人な悠太と合させてもらいました。とても重い話になってしまって申し訳ないです…。これからも当サイトをよろしくお願いします。

thanks!
アイロニ/すこっぷ様 feat.初音ミクAppend