thanks | ナノ
高校時代によく歩いていた坂道と似ているこの場所。思い出すのは彼と一緒に坂を上った時。夕日が映えていて、私は彼の少し後ろを歩いていた。背の高い彼の歩幅は私とは明らかに違っていて、いつも私が歩幅を合わせて大きくするのにそれでも追い付かなくて。だけど、そんな時には彼はいつも振り返らずに手だけを差し出して、あと少しだから、と言った。嬉しくて、その手を握っていた。


ありふれた幸せが



彼、山口賢二くんと出会ったのは同じクラスの子たちと遊んでいる時に現れた彼を見た時。最初はかっこいいな、ぐらいにしか思っていなかったけれど、日に日に話していくうちに好きになっていて、雫ちゃん、ハルくん、夏目ちゃんやササヤンに相談した時に告白すればいい、と言ってくれた。だから皆の言ってくれた通りにしようと思って、大勢で集まった時にヤマケンくんに来て欲しい、と呼んだらマーボくんが、良かったなヤマケン、と言った。最初はよく意味が分からなかったのに、顔を赤くしたヤマケンくんを見て自分も伝染してしまってそれからが始まりだった。
学校も違うし、終わる時間も違う。けど、いつも待っていて一緒に帰っていた。時々話を振ってくれるヤマケンくんに耳を傾けていて、今度は私の話を聞いてくれて、笑って、嬉しくて。いつも私はドキドキしていた。


「・・・懐かしいなぁ」


だけど、それはもう何年も前の話で。私は、彼と付き合いってからの二回目の夏に引っ越しをすることになった。引っ越し先は、そこから遠くて会うのもなかなか出来ない場所だった。けど、それでも少しは続いていた。電話をしたり、くれたり。ヤマケンくんだけじゃなくても、雫ちゃんたちとも連絡を取っていた。繋がってるんだ、って思えて幸せだった。なのに、ヤマケンくんに電話した時後ろの方で女の人の声が聞こえて、それから不安になっちゃって。耐えられなくて、毎日泣く時もあった。それでも、ヤマケンくんには悟られまいと彼との電話の時には笑っていた。

でも、とうとう私の涙腺が切れてしまって雫ちゃんたちとの電話の時に泣き出してしまった。苦しい、と何度も言って。そんな私を励ましてくれる皆にまた涙が出て来て。それから数日後にヤマケンくんから電話がかかって来て、不安だったけどそれに出た。


『ハルに殴られた、』

『・・・え?』

『ガリ勉にも、他の奴にも』


どうして殴られたのか分からずに困惑しているとヤマケンくんが、不安なら何で俺に言わないんだよ、と怒った声でハッとした。きっと、この前私が泣いたから。ヤマケンくんはそのまま怒った口調で、名前は俺を信じてないんだろ、と言われて違うと何度も否定したのに聞いてくれなくて。もう、駄目だと思った。ごめんね、と何度も何度も謝って、泣いてしまって。別れよう、と告げて答えも聞かずに私は電話を切った。その後に、何度も電話が鳴ったけれど耳を塞いで聞かないフリをした。

それからヤマケンくんとは音信不通になったけど、雫ちゃんたちとは話していた。気を使ってか分からないけど、ヤマケンくんの話は一切出てこなくて、ただいつも申し訳なさそうに最後に謝って電話を終える。


「元気、かな」


そんな苦しくて、辛くて、だけど幸せな時もあった高校時代を思い出して涙が出てきた。今だってよく考える。あの時に電話しなければ。彼を信じていれば。弱音を吐かなかったら。電話に出ていたら。しても仕方のない後悔をして。
でも、これで良かったのかもしれないとも思えた。おかげで大学受験に専念出来て、合格することが出来たんだから。

振り返り、夕日を眺めた後に足を進めようとした時、携帯が鳴った。もう聞くことのないだろうと思っていた着信音で。ディスプレイには、消すことが出来なかった彼の電話番号。意を決して、私は通話ボタンを押して出た。もしもし、と言えばあの時より少しだけ低くなった声が耳に届いた。


0902
リクエストありがとうございました!とても長くなったうえに、終わりは意味不明ですね・・・。なんか、悲しいだけの話にしたくなくって、終わりにはあの人からの電話・・・!その続きはご想像にお任せします。今、彼女たちは大学4年生、という設定です。ヒロインちゃんが言った大学は都内です。一人暮らししてます、的などうでもいい設定。雫とハルとは部が違うけど、ササヤンや夏目ちゃんとは同じですね。イコール同じ大学です、はい。ぜひこれからも宜しくお願いします!

thanks!
夕日坂/doriko様 feat.初音ミク