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(バレンタイン拍手log)


どうやら今日はバレンタインという、女の子にとって大切なイベントらしい。学校の女の子たちも浮き足だっていて、下駄箱を開けばたくさんのチョコレートが入っているという漫画でもよくあるようなシーンを体験した。
中には、放課後の呼び出しの手紙が入っている。
このチョコ、どうしようか。そう悩んでいるのは俺だけじゃなく、双子の弟の祐希も一緒らしい。


「おはよう、双子」

「・・・一括りにするのやめてもらえませんか」

「何よ、弟。別にいいじゃないの・・・わあ、チョコ凄いね」


寒そうにマフラーを巻いて登場したのは、俺の茶道部の先輩だった。祐希の下駄箱を見て驚いた先輩は俺の所にもきて、同じセリフを言った。相変わらずモテるね、とからかってくる先輩にそんなことないですよ、と言ってチョコレートはそのままにして上靴だけを取った。今取っても大変だから帰りにでも取ろう、その考えは祐希も同じだったみたいだ。


「あ、悠太」

「はい」

「今日準備あるから、春と早く来てね」


分かりました、と俺が返事をするとにこりと笑って同級生のもとへ行った。
・・・・・・そういえば春って日直だから遅くなるんじゃないかな。思い出したのは、もう先輩の姿が見えなくなったあとで、祐希は仕方ないんじゃない、と言ったから俺もその言葉を繰り返した。
教室に行くと春がいて、聞いてみるとやっぱり日直みたいだから俺だけ先に部室へと向かう事にした。部室に行くともう先輩がいて、着替えおわっていた。


「あれ、春は?」

「日直みたいで・・・」

「そっかー」


俺も急いで着替えに行って、お皿や茶菓子の準備をし終えると少し時間が余ったねと言った先輩は何か箱を出して俺に渡してきた。それはチョコレートみたいで、先輩の手作りらしい。


「・・・これ」

「いらないかもしれないけどね。あ、これは祐希のね」


渡してね、と先輩は言って春のぶんも、と俺の前に出してきた。
なんだ、義理チョコっていう奴か。なんて、ちょっとガッカリしている俺に、先輩は悠太のは本命だったりして、なんて言っていつもみたいににこりと笑った。



大人の味はビターチョコ

それって…、と言いかけた俺の言葉はあとから来た部員の声で消された。ああ、放課後の呼び出しをちゃんと断らなきゃなぁ、と時々目が合ってしまう先輩を見て思った。むずむずとするこの心はきっと嬉しい証拠なんだ。


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