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(バレンタイン拍手log)


いつもの本屋さんに行くと、大きなハートが店内に飾ってあってバレンタインデーと書いてある。ハートの下には手作りチョコレートの本とかそういう特集のある雑誌が並んでいた。集まるのは女子高生とか女の人ばかり。
アニメ雑誌の横にそういう本が並ぶと一番困る。正直楽しそうに騒ぐそのテンションが不思議だ。
パタリと読んでいた本を閉じて、集中できないから家で読もうと思いレジへ向いそれを買った。
外は寒くて、風がすごくうるさい。
早く家に帰りたくて公園を横切ろうとした時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえて辺りを見ると、違う高校へ行った幼馴染みが立っていた。


「わあ、久々だねー」

「うん」

「祐希ってば相変わらずだね」


にこにこと笑う彼女も俺と同じように手に何かを持っていた。それ、と指差すと手作りチョコレートの作り方の本だよ、と言って見せてきた。その本にはおいしそうなチョコレートの写真が載っている。
彼女も高校生だし、そういうの興味あるよね。誰に作るんだろうとか、そういうことが気になっている俺が分かったのか、彼女は友達に作るチョコだよと笑った。


「高校生になってから、チョコ作る相手は友達だけだよ」

「…中学生のときって誰かに作ってたっけ」

「四人の幼馴染みに作ってたでしょ。もう、大変だったんだからね」


あ、そうか。中学生までは俺たちにもくれてたんだ。
あー懐かしいね、と言うとそうだね、と彼女も言った。あの時は、千鶴がいなくて凄く平穏だったな。
彼女からもらったチョコが凄くおいしくて、俺が最初に食べちゃったからいつも悠太に一個だけって言ってもらってたなぁ、とふと思い出した。


「チョコ欲しい」

「あれ、高校で他の女子から貰わないの?」


祐希モテるんじゃないの、と言った彼女に貰うけど…と言うと、じゃあいらないでしょ、食べるの大変でしょ、と返されて、なんだか悔しかった。
全部食べる、と言うとうーん…と悩む様子をしながら分かった、と言って頷いてくれた。




甘く甘い溶けた恋心

祐希ってば必至すぎ、もともとあげるつもりだったよ。そう言った彼女の声が頭の中でこだまして、今年は勇気だすつもりだったんだ、と言って寒くて少し赤かった頬は余計に赤く染まって見えた。


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