thanks | ナノ


好きで好きで仕方なくて、それは僕だけじゃなくて彼女もそうで。彼女がいれば世界なんていらないと僕は思う。この手の平に彼女と共に生きる僕がいる、それだけで構わない。束縛して、独占して、誰の目にも触れさせなくて。それは、僕の間違いだったのだろうか?目の前で怯えながらも床に散らばったガラスを拾う彼女を見下ろしている僕。無数の傷跡がある彼女を見ていられない。けれど、その傷跡が僕のものだということを証明するようなものに感じられて、酷く安心出来るんだ。ぽたり、と赤いものが床を汚してハッとした。彼女の手から零れる血を見て、理性を取り戻した。


全部分かってる



「…大丈夫か?」

「大丈、夫だよ。こんなのヘーキ」


何事もないように言う彼女に、こんなことしたかったわけじゃないんだ、と出てきかけた言葉をぐっと飲み込んだ。僕が、そんなことを言えるような資格はない。だめだ、こんなんじゃ。こんなことを毎日繰り返していたら、名前が、壊れてしまう。ギリリと唇を噛みしめた。これは名前の痛みの何分の一だろうか。百分の一?いや、もっとかな。考えれば考えるほど苦しくて、息が出来なくなりそうだ。

名前と出会ったのは、高校二年生の春だ。転校生として来た彼女を案内するように頼まれて、話していくうちに惹かれ合っていた。その時の名前の笑顔は優しく笑っていて、今の彼女の顔を見ればそんな日が色褪せているようで。…僕が、彼女から笑顔を奪ったんだ。

付き合って一年目は、まだ笑っていた。二年目も。三年目の後半から、少しずつおかしくなっていった。彼女はそれなりにモテていて、男と話す機会も多い。それを見るたびに僕は苛々していた。


「…征十郎?」

「あ、あぁ…、すまない」

「気分、悪いの?」


黙っていた僕を見る名前。全く笑っていなくて、胸が苦しくて。気がつけば抱き締めていた。いつまでも言えなかった言葉を言っていた。ポツポツと降り出した雨は、まるで僕らを表しているようで。


「もう、君は自由だ」


そっと額に口づけて、彼女の言葉を聞くよりも先に部屋を出て行った。泣き叫ぶ声で僕を呼ぶ彼女に足を奪われそうになったけれど、これは僕のためじゃなく彼女のためにすることなんだ、と言い聞かせて足を進める。振り向くな、そのまま進むんだ。ぐっと掌を握った時、指につけているものに気付いた。彼女とのペアリング。今までの思い出が全て頭の中を駆け巡った。そ、と指から外して玄関の棚の上に置いて出て言った。扉が閉まる音が聞こえた途端、彼女の泣く声が一段と大きくなって、その声を聞けば苦しくなる。今直ぐ抱き締めて、泣くな、と言ってキスをしたい。


耳を塞いで、泣き叫ぶのを堪えるために、さっきよりももっともっと唇を噛みしめて、僕の最後の言葉は土砂降りの雨に掻き消されていった。


「ふ…っくぅ、愛…して、た、    」


0820
ちよこさんリクエストありがとうございました!と、とてつもなく歪んでいて暗いお話が出来上がりました(゚Д゚;)「もう、君は自由だ」のあとからヒロインの名前を呼んでいないのは赤司くんのけじめです。最後の一言は泣きながら言っていて、空白の部分はお好きなように想像してください!・・・なんか、あれですね。赤司くんは悲しい話とかが合うんでしょうか。というか、自分の文才のなさに笑えますね(笑)え、なに最後の。泣いてるの?わかんねぇよ(笑)とか思うかもしれませんが、ご勘弁を!ぜひこれからもよろしくお願いします!

thanks!
Just Be Friends/Dixie Flatline様 feat.巡音ルカ