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中学の時から好きな奴がいる。一番傍にいたし、きっと彼女にとっても僕は特別な存在だったはずだ。それは自信がある。けれど、想いなんて伝えられるはずなんかない。もし、トクベツなトモダチだとしたら?そうしたら、僕が想いを告げても迷惑なだけだ。その後気まずくなるのが目に見えている。そしたら、ずっとこのままでもいい。このまま彼女の隣りにいられるなら、何にも言わない。我儘なんて、欲なんて出さない。僕を見ているのかと思ったけれど違った。僕と一緒に居る敦を見ていたんだ。酷く残酷だと思わないか?彼女を見る僕と、敦を見る彼女。絶対に届けられるはずがない僕の想い。


これが僕の選択肢



洛山の門を抜けていつも通り登校すれば、にこにこと笑う苗字が近づいて来た。僕を呼ぶ彼女の声に、今日は明るいな、と思った。暗い時は本当に暗くて、話すのを止めたかと思えば、ふと悲しい顔をする。抱き締めて背中を撫でてあげたいといつも思うんだ。


「どうしたんだ?」

「あ、えっとね、」


キョロキョロと周りを見て僕の右耳に口を寄せると、キセキの皆が行った高校がWCに出場するんだって、と言った。そうか、と返せば離れて行ってニコリと笑う苗字。紫原くん、きっと変わってないだろうね。と嬉しそうに笑う苗字にズキ、と胸が痛む。だけどそれを悟られぬように、そうだね、と僕も薄く笑った。それから苗字は、準備するから先に言ってるね、と小走りで体育館の方へと走って行った。
ヒュゥヒュゥと冷たい風が耳を撫でる。それでも熱い右耳は、もしかしたら赤くなっているかもしれない。はあ、と白い息を吐いて消えていく苗字の後ろ姿を見て胸を抑えた。


それから時が経つのは早くて、いつの間にかWCの初日だ。久々に皆に会って、火神という男に会って、帰れば短くなった僕の前髪を見たレギュラーメンバーは笑い、苗字は驚いた顔をしていた。


「敦に会ったよ」

「え、そうなの?」

「ああ。名前に会いたがっていた」


伝えれば私も会いたかったなぁ、と眉を下げて笑う苗字。・・・二人は両想いなのだろうか、と思っていたことが今になって信じられることが出来た。あの敦が他の人を気にして、苗字は敦に会いたがっている。もうそれだけで明確じゃないか。考えるよりも先に苗字の手を掴んでいて、陽泉がいる所の近くに来ていた。陽泉は敦と同じくらいの身長の奴もいるが、やっぱり敦はどこにいても目立つ。行っておいで、と背中を優しく押せば、え?と言いながら振り返った。だから、僕は今度は笑顔を張り付けてもう一度言うんだ。


「・・・敦に、会っておいで?」


途惑い気味に足を進めては振り返る苗字。だんだんと近づいて行くと、向こうが苗字に気付いて二人の距離が近くなる。それを確認したあと、僕は洛山がいる場所ではなく外への廊下を歩いていた。ブザーが鳴る音が聞こえていて、今頃他の所が試合をしているのだろう。そう考えながら外に出れば、人が一人もいなくて僕はその風景を眺めていた。


上手に笑えていただろうか?

洛山の試合は30分後。それまでに、また笑えるだろうか?

この涙は止まるだろうか?


0817
ちゃちゃさん、リクエストありがとうございました!赤司くんっぽくない赤司くんになってしまいました(´;ω;`)で、でも泣いてる赤司くんとかって萌えるかな・・・って(え)歌詞一部入っています。「君の視線の先にはいつもあの人がいる」での「あの人」には紫原くんを当てはめさせてもらいました。赤司くんと仲良しの紫原くんが羨ましいな、って思って赤司くんじゃなく紫原くんを見ていたヒロインちゃん。っていう設定です。赤司くんがヒロインちゃんを苗字で呼ぶのは距離を表しています。それでヒロインちゃんが紫原くんとお話する内容はいつも赤司くんのことばかり、です。っていう、ちょっとした裏設定。この中で表現が出来ていなくて申し訳ないです!ですが、ぜひこれからもよろしくお願いします!

thanks!
聴こえていますか/やながもP様 彩様 feat.初音ミク