プラスチック・ブルー | ナノ
黒子がコートに立ってから、誠凛と海常の点数は同点までに並んだ。いるかいないか分からない存在にここまで追い詰められて、黄瀬は本気になるんじゃないだろうか。嬉しさ半面、不安もあった。どっちに勝って欲しいとか、そういうものはないのだけれど…、なぜだか、黒子を応援したくなった。

同点のまま進んでいき、残り7秒で笠松さんがボールを放った。弧を描いてリングに入るであろうボールは手を離した瞬間に火神くんが止めて、誠凛ボールへ。あと少ししかない。
全員がハラハラするこの瞬間、火神くんはブザーと共にゴールを決めて、誠凛が勝利した。

「…勝った」

はらりはらりと、心の奥で何かが舞うような感覚がする。黒子が勝った。…黄瀬は?目を移してみれば、涙を流し泣いていて、私の胸が痛む。礼が終わると誠凛は盛り上がり、私は姿を忽然(こつぜん)と消した黄瀬のもとへと足を進める。水道で顔を洗う黄瀬のもとへ一歩ずつ近づけば蛇口の水を止めた黄瀬と目が合い、考える暇もなく目の前が真っ暗になって。

「…負けちゃったっス」
「うん」
「俺、頑張ったんスよ?」
「うん」
「……やっぱり、美華っちは分かってたんスか?」

間を置いて問われた黄瀬の言葉に、黄瀬の腕の中で頷くしか出来ない。途端に、さっきよりも暗い声で、そっスか、と呟くように返事をする黄瀬の腕の力が強くなる。ふんわりと匂う汗の匂いと黄瀬のシャンプーの匂いに胸が締め付けられてしまうように感じて、離れてもらおうかと黄瀬の肩を押そうと手を置けば、分かったのか拒むように抱き締められる。

「女にうつつを抜かすから負けるのだよ」

聞き覚えのある声が聞こえて、口癖も聞き覚えがあるものだ。渋々と離れた黄瀬の奥に見えたのは、カエルのおもちゃを持った緑間がいて、私と目が合うと驚いた顔で、見に来ていたのか、と呟くような問いかけに静かに頷く。
お前も赤司も残酷だな、と顔をしかめる緑間は、黄瀬に用件だけを伝えると連れの男の子と一緒にすぐ帰って行ってしまった。

(残酷だなんて、そんなの分かってる)

一本のレールが引かれる

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