プラスチック・ブルー | ナノ
「美華っち」

軽快な声が私を呼び、振り返れば一丁前にサングラスをかけた黄瀬が立っていた。
場所はマンションから少し離れた公園。理由は、赤司に見られて何かを言われても困るから、と言ったときの黄瀬の声は少しだけ寂しそうだった。

「部活お疲れっス」
「ん、黄瀬も仕事お疲れ様。部活の方は休んで大丈夫だったの?」
「今日だけっスよ。インターハイも近いからね」

ベンチに二人で座って、他愛もない会話が繰り広げられる。黄瀬はまるであの時に戻ったように笑って学校や部活のことを話してくれた。そっか、と頷く私に「美華っちは楽しくないんスか?」と核心をついてくるような言葉。
楽しいよ、すごく。だけど、それ以上に怖いとさえ思えた。みんな強くて、今年の優勝も洛山だろうことは簡単に想像ができた。無冠の五将が三人もいるけど、まだバスケが好きっていう思いは目に見えてわかる。けど、いつかあの時のみんなのようになってしまいそうなことも簡単に想像ができてしまう。

「…すごく楽しいよ」

だけど、それを黄瀬に言えるはずもなかった。きっと、その言葉を言ってしまえば黄瀬はあの時の自分を責めるかもしれない。隠すようにして笑った私にピクリと眉を動かしたけれど、何も言わず彼も頷いた。
会話も止まり、ふと時計を見てみれば一時間も経っている。「仕事は大丈夫なの?」と黄瀬を見れば「あ、もう帰るだけなんで大丈夫っスよ」と。もう仕事が終わってるなら明日のために早く帰らないとだめじゃない。そのまま彼に伝えれば、ぶっと口を突き出して拗ねるような顔をした。けど、それどころじゃない。黄瀬だってインターハイが待ってるんだから。

「ほら…どうせインターハイの会場で会えるでしょ」
「…そうっスね」

よいしょ、と重たい腰を上げた黄瀬は、未だにベンチに座ったままの私の腕を引っ張りあげた。真剣な瞳が私を捉えたまま離さない。

「ねぇ、美華っちはインターハイがもう視えてるんスか?」

今まで聞こえていた虫の声や車の音が一気に消えた気がした。シン、と静まり返る空間の中で聞こえるのは私の波打つ心音。

「そんなの黄瀬には関係ないでしょ」

少しだけ突き放すように言えば、目を見開いて「そうっスね」と寂しそうに笑った。これでいい。きっと、これでいいんだ。
「ごめん」と謝り、目を閉じて見えたのは二人が戦う姿だった。

答えなんて誰にもわからない


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