プラスチック・ブルー | ナノ
中学からの習慣で今日も目覚ましなしで重たい体を起こした。カーテンを開けば、眩しい日の光が差し込んで思わず目を細めた。窓の向こうの景色では、赤い髪がランニングから戻ってくる姿がある。
それを目にとらえつつも、台所に立ち簡単な朝食の準備を始めて、着替えて…一人暮らしをして面倒なことはご飯だった。昼の弁当も用意しなくてはいけない、というのが憂鬱で途中でサボったりもしていた。けれど、例の如く赤司に「自分の体調管理もできない人にマネージャーが務まると思っているのか?」と忠告をされてからはきちんと作るようにしているけど。

弁当までを作り終えて、いつもと同じ時間に家を出てロビーを抜ければいつもはもう少し遅いはずの赤司が立って鋭い瞳が私を貫く。

「おはよう」
「…おはよ。珍しいね」
「ああ、美華に話があってね」

ドキッとひとつ心臓がうるさくなる。
話?話って、何?部活のことか…それとも、黒子のことか。グルグルと目が回りそうになっていれば赤司の柔らかく、けれどどこか確信をついてくるような透き通った声に呼び戻された。隣の彼に目を向ければ、目は笑うことなく口角を密かに上げて私を見ていて。

「テツヤと大輝の試合結果は聞いたか?」
「…うん」
「で、今回はどうだったんだ」

どうだった、という言葉に二つの意味が込められているだろう。一つは試合の結果。そして、もう一つはそれよりも前に私が見えていたのかどうか。
静かに首を振って「負けたよ」と告げれば、まるで興味がなくなったかのように赤司の目は私から離れた。少しだけ解放された気分になり、ほっと一息ついていれば携帯のバイブ音に小さく心臓が跳ねた。ディスプレイを確認してみれば、黄瀬からだったけど今は赤司が傍にいる。そっと鞄の奥深くにしまって探るように私を見る彼から逃げるように足を速めた。
黄瀬にはあとでメールでもしておこう。きっと、許してくれる。
赤司と特に話すこともなく洛山の門を潜り抜けて、更衣室へと向かった。重たかった空気が一人になることで一気に軽くなり、ほっと息を吐く。
いつからだろう、赤司といるのがこんなに息苦しく感じるようになったのは。別に怖いわけじゃない。ただ、赤司と二人きりが辛い。
ぎゅっと自分の肩を抱きこむようにして、崩れ落ちるようにその場へ座り込んだ。すると、忘れていたかのように携帯のバイブ音が微かに聞こえ、黄瀬からの電話を思い出し慌てて取り出した。
1件のメールの着信に開いてみれば、予想通り黄瀬から。

「今日撮影で京都に行くけど、会えない?」

たったそれだけのために朝から電話してきたのか。なんて思いつつもどこか嬉しくて、「部活が終わった後なら」と打ち送信した。にっこりと笑う黄瀬の顔を頭に浮かんで。


瞼を閉じて見えるのは


0617