プラスチック・ブルー | ナノ
一日練習が終わり帰宅をして携帯を確認すれば、一件の未読メールが入っていた。相手は黒子だ。脳裏に過る、青峰と黒子の試合のことを考えながら開けば淡々とした一文が書いてある。

「負けました。」

ただそれだけ。黒子は今どんな気持ちなんだろうか、と胸が苦しくなった。
電話……いや、でも疲れて寝てるかもしれない。…でも、中学のことを思うと電話をしないと、黒子が消えちゃうんじゃないかと不安にもなってきて。
電話帳を開いては閉じを繰り返していれば着信が入った。

(黒子…?)

ディスプレイを確認してみれば、黒子じゃなく黄瀬。ふう、と一息ついて通話ボタンを押し、耳に携帯を当てた。
けれど、いつも聞こえる明るい声じゃなかった。落ち込んだような、そんな声。

『黒子っち、負けちゃった』
「…うん。黒子のメールで見たよ」
『……やっぱり知ってたんスか?』

それは知らなかった。
素直にそう伝えれば、少しだけ不思議そうな声色の黄瀬に苦笑い。私だって、いつでも何でも見るわけじゃない。それに、今回は赤司がいた。ずっと監視するような目で、そんなことを考える暇もなかったんだと思う。それとなくそのことを伝えてみれば、黄瀬の少しだけ深刻そうな声が私の名前を呼ぶ。

『美華っち、大丈夫?』
「……何のこと」

少しだけ間が空いた私の返事に黄瀬は「そういうことっスよ」なんて。ああ、もう。黄瀬にはかなわないよ。ほんの少しだけ弱音を吐いたような私の言葉に、いつも黄瀬は優しく声をかけてくれる。中学の時も、今も。黄瀬のその優しさにいつまでも甘えてしまうのはダメだってわかってたけど、今回ばかりは他に頼る相手がいない。

「…つらいよ」

ぽつり、と漏らした私の言葉に一気に静けさが漂った。これは言ったらいけない言葉だったかもしれない。
なんでもない、と言おうとした私の言葉を遮るように黄瀬が「じゃあ俺のところにおいでよ」なんて。とても冗談に思えない黄瀬のその言葉にトクリ、と一段階心臓が速くなる。

「赤司っちのところが辛いなら、俺のところに…」
「ごめんね、黄瀬」

いろんな思いを込めた私の言葉に、それ以上黄瀬は何も言わなかった。
黄瀬だってわかってるくせに、そんなことを言うのは意地悪だよ。でも、ほんの少しでも揺れ動いた私はバカだなぁ…。
ふふ、と自傷気味に笑った私を心配そうにする黄瀬に悪い気なんて一切ないけど、それがまた辛く感じるのも事実。

「ごめん、黄瀬。ありがとう」

そうして一方的に通話を終了させた。何か言いかけたみたいだけど、黄瀬もそこまでバカじゃない。きっと、今はそっとしておいてくれるだろう、なんて。
ぐるぐると回る思考に耐え切れず、そっと瞼を閉じた。

読みかけの本を閉じて、


0617