短い話 | ナノ
いつものかるた場へちはやと一緒に行くと、千早ちゃん、まつげくんと聞き覚えのある声に呼ばれた。その方向へ目を向けると、やっぱり名前さんで、いつものように斜め下に髪の毛を結びながら俺たちのところへ来た。どうやら今日は俺が名前さんとするみたいで、手加減なんてしないからね、とにこにこと気合十分な様子だ。

「俺も負けませんよ」
「やだな、まつげくん。私をナメてもらっちゃ困りますよ」
「名前さんも俺のことナメてますよね」


そんなことないない、と手を顔の前で振りながらまたにこりと笑った。
それから原田先生が来て、千早は原田先生とするみたいでズルズルと引きずられていった。そんな光景を笑った名前さんは、千早ちゃんと原田先生って面白いよね、と言ってきたから、まあ…と適当な返事をしてかるたを並べる。途端に、さっきまで笑顔だった名前さんは真面目な顔になってかるたと向き合っていた。

引き込まれる。その空気に。

「…名前さん」
「なあに、まつげくん」
「俺が勝ったら、まつげくんって言うのやめてもらっていいですか?」
「えっ。じゃあ、どうやって呼んだらいいの?」

きょとんとした顔で言ってきたから、普通に名前で…と言うと、了解と言って名前さんは笑って、またかるたと向き合った。
勝ちたい。勝って、名前で呼んでもらいたい。少しでも近づきたい。俺に気付いてほしい。

いろいろな想いが混ざって、俺はやっぱり名前さんが好きだ、って思った。


差が縮まって、でも君が上

一枚差で俺が勝って、目の前の名前さんは悔しそうだった。いつもなら束で差をつけられて俺が負けるけど、名前さんに名前で呼んでほしい気持ちが大きくて、今日俺は勝てたんだと思う。その場から立ち上がる名前さんを見上げていると、真島くん強くなったね、と名前さんは笑って立ち去ろうとしたから、その手を掴んで、真島じゃなくて太一がいいです、と言うと、にこりと笑って、うん、分かった。太一くんね、と言って俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。

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