短い話 | ナノ
彼はいつも優しくて、みんなのお兄さんみたいだなって思った。我慢もして、人をまとめて、励まして……あげたらキリがないほどに長所がいっぱいある。だけど、そんな長所だらけの彼に一つ短所をあげるとしたら、興味が薄いことかな。何に対しても特に反応するわけでもなくて、たった一つ興味が続いているのは一枚のCDだけ。

「悠太、悠太」
「どうしたの」
「これ、新しいCDを買ったの」

悠太の目の前に新しく買ったCDを出してみた。それは最近流行りのグループのもので、ポップな感じが可愛らしくて、一度聴いたら口ずさんでしまうような歌。この歌なら悠太も興味を持ってくれるかもしれない。
期待で胸がいっぱいだった。だけど悠太は、そう良かったねと言って頭を撫でるだけ。

いつものように。

ああ、これも失敗だった。期待で膨らんだ胸は、水を貰わなかった花のように枯れた。
もしかしたら、悠太が興味があるものは、この世には存在しないのかもしれない。神さまが全て消し去ってしまったのかもしれない。それとも、彼の心を消してしまったのかな。ロボットのような心が空っぽな人にしたのかな。

「…具合悪いの?」
「……だいじょうぶ、」
「そっか」

悠太の心を取り戻すにはどうしたらいいの?私が、我慢したらいいのかな。我儘を言わないで、みんなの言う事を聞けば悠太はもっといろいろなことに興味を向けるのかな。やっぱり、神さまのいじわるだ。神さまは悠太にとっていじわるな世界を作った。こんなに優しい悠太に、興味のあることを与えなかった。

私はただただ祈るだけだった。

どうか世界が彼に優しくありますように

私は何も気付いてなかった。目の前に座る悠太が優しい顔をして私を見つめていることを、彼の興味のでるものを考えている私には。悠太に好きだって言われて、その時思ったことは、最初から世界も神さまも彼に優しかったのかな、と思って隣に座る彼を見て、私がいれば悠太は幸せ?なんて聞いて、うんという返事を聞いた…なんていうのはまたあとの話。

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