短い話 | ナノ

審神者になって一年が経とうとしていた。ここまでで集めた刀は四十口で、最初の頃は寂しかった本丸も今ではみんなが楽しそうに走り回っていた。どこに行っても楽しそうな声が聞こえるこの場所が私は好きで、隊長の山姥切に寄っていく短刀たちに笑みが零れる。
最初の刀は山姥切だった。いつもマイナス思考の彼に不安を覚えたりもしたけれど、二振り目の短刀の面倒をよく見てくれていたのは彼だ。面倒見の良いその姿にいつしか愛おしく感じていた。

「おい」

ぼんやりと彼のことを考えていれば、いつの間にか目の前には当の本人がいた。いつものように顔は隠れていてほとんど見えない。縁側に座っていた私を見下ろした彼は「具合でも悪いのか」と。

「え、そ、そんなことないよ!うん」
「…だが、顔が赤いぞ」
「あ、うん、これは大丈夫だから」

へらっと笑ってみせたけど、彼は一向にその場から動こうとせず立ち尽くしたまま。どうしたものかと、さっきまで彼と一緒にいた短刀たちを見れば乱ちゃんはニヨニヨと笑っていて、頭が一段と沸騰しそうだ。
近すぎる距離に心音は止まない。部屋から顔を覗かせた堀川に助けを求めようとしたら、彼特有の怖い笑顔で「主さん昨日から具合が悪いって言ってたから、部屋に連れて行ってあげてよ」なんて山姥切へ言った。その言葉に目の前に立つ彼の顔が隠れていても機嫌が悪くなったことが雰囲気でわかる。そうだよね、面倒だよね…。うう、と肩を落としていれば、体が宙に浮くような感覚に思わず変な声が出た。

「具合が悪いなら無理するな」

怒ったような声で、今まで布で隠れていた顔がお姫様抱っこをされていることでよく見える。思わぬことに頭がショート寸前で…。けど、乱ちゃんも堀川も止めてくれる様子なんてない。
こんなの、心臓もたないよ!山姥切に訴えようにも、聞く耳なんて持ってくれる様子もなくズンズンと廊下を進んでいく。気が付けば自室に連れられていて、そっと下ろされた。

「寝てろ」
「いや、あのね…具合、悪くないよ?」
「しかし兄弟が」

うーん…あれは嘘なのって言っても、どうしてそんな嘘を言うのか。ってことに至る。そして、その理由を言ってしまえば私の審神者人生は終わりを告げることになってしまう…!ぐるぐると頭をフル回転させていれば、目の前に花を差し出された。

「え、これ…」
「あんたが好きだと、短刀たちに聞いた」

なんてことない、道端に生えてるような花。それを恥ずかしそうに差し出して「こんなものが好きなのか?」と怪訝そうな顔をする山姥切の手を花ごと握りしめていた。
山姥切のようでいつしか好きになっていた。なんてことない花かもしれない。けど、その花を見て幸せになる人だっているのだ。
そのまま彼に伝えれば、布に隠れた顔が露わになりみるみるうちに真っ赤になっていった。

「そ、そんなことを言うな!」

そう言った彼は、布を翻して私の部屋を出て行ってしまった。
そんな彼の背中を見送って、ああやってしまった…と自室で一人項垂れた。絶対気持ち悪いと思われた…なんて思っていれば、まだドタドタと廊下をうるさく駆けてくる音。さきほど消えたはずの山姥切が戻ってきて、

「これはあんたのために取ったから受け取れ」

照れたような、今まで見たことのない彼の顔を見て、私の胸は一つ高鳴った。

それは、そう遠くない未来
あなたとわたしが笑い合ってる姿

0621