短い話 | ナノ

先輩たちの卒業式、所々ですすり泣く声が聞こえて、体育館の中もしんみりとしていた。
俺の視界に映る先輩も下を俯いて目元を何度も拭っている姿が見える。
その胸元には卒業生がつけるリボンが見えて、先輩も卒業するんだと、一緒にいられないんだ…と感じて心がぽっかりと穴が空いたようになって。
呼ばれた先輩の名前に、自分が卒業するわけでもないくせに、ほんの少しだけ目元が熱くなった。




友達や後輩、先生に別れを告げる卒業生たち。俺も木兎さん達の所へと向かった。

「赤葦、ちょっと来いよ!」
「? はい」

悪戯する時のような木兎さん達の笑みに不審に思いながらもついて行けば、目を真っ赤に腫らした先輩がいた。
俺たちを見るなり笑って、木兎さんたちと少し話して俺の所へと近づく先輩に驚いたままの俺は動けない。

「…卒業、おめでとうございます」
「ありがとう。…赤葦と話すのも、今日で最後かな、」

らしくもない先輩の笑顔に、言葉に傷ついて、拳を握った。
なんでこんなに傷ついてるんだろう、とか、寂しい会いたい、とか。
こんな気持ちになるのはきっと、俺が先輩を好きだから…。
自覚した途端に抑えきれなくなって先輩の手を握っていた。

「二人で行くんじゃないんですか…行こうって言ったじゃないですか、」
「あ、あの時話した事って社交辞令じゃないの…?」
「…本気です」

じわりじわりと上がってくる想い、溢れてくる想いと一緒に涙も出てきそうで奥歯を噛み締めて。
こんな風に先輩が本気にしてくれなかったのは、俺と先輩のたった一年、一歳という壁に、時より速く歩くことが出来たならこの人の隣に並んで歩くことが出来たのに…なんて。
たった一歳の壁をこんなに大きく感じるなんて思いもしなかった。
けど、俺は…

「先輩の側にいたい、です…」

自分の気持ちを、産まれて初めての感情を言ってしまえば、我慢できなくなった涙がぽろぽろと出て来て、自分らしくもない行動に顔を俯けた。
先輩の手を握っていた力もだんだん弱くなって、俺は先輩を諦める気持ちで離した。
けど、先輩はそっと俺を抱き締めてくれて「私も、赤葦の側にいたい…」涙声に嬉しくなって、俺も先輩の背中に手を回して「好きです」と何度も何度も伝えた。

まだまだ蒼い自分たちへ

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