短い話 | ナノ
今日も絶賛ご機嫌斜めの宮地先輩を、視界の端に捉えながら他の部員に用意したドリンクを渡していく。最後に渡した高尾くんは「宮地先輩キゲン悪そーだけど、どしたの」なんて聞いて来て、私に分かるはずもない。
宮地先輩はいつもあの調子だよ。とも言えず苦笑いを零して肩をすくめた。高尾くんもそんな私の様子に眉尻を下げて笑った。
まだシュート練をしていた緑間くんも休憩に入って、お話をする私たちの所に来たから緑間くんのドリンクを渡して今度は三人でお話をしていた。そしたら間を裂くようにボールが飛んでくる。

「…っえ」
「いつまで話してんだ。休憩終わったぞ」

ボールを投げた宮地先輩は何もなかったかのようにコートに入って行って、高尾くんと緑間くんも渋々といった感じでコートに行った。残された私は茫然と宮地先輩の背中を見ていたら、チラリと振り返った先輩と目が合ったけど、その目も何だか怖くて自分から目を逸らした。

宮地先輩と付き合っているはずなのに、周りの子には疑われてばかり。その理由は、宮地先輩が私に冷たいから…。他の人には良い顔をしている宮地先輩は私には少し冷たくて、その様子を見ていた宮地先輩のファンの人たちは私が嘘をついてるって疑ってるらしい。
でも、そんなの私だって疑ってる。恋人らしく手を繋いで帰るわけでも、デートもキスもしない。いつも宮地先輩を怒らせないように…って精一杯なのに、宮地先輩はいつだって機嫌が悪い。

「おい」

空になったボトルを洗っていると、宮地先輩に呼ばれた。怒らせないように…と心の中で考えながら振り返ったら、ボールを投げてきた時ほど怖い顔をしていなくてホッと胸を撫で下ろした。
どうかしましたか?そう言うよりも先に手を掴まれてあからさまに驚いてしまう。

「悪い…さっきの、その…」
「え、あ、いや…当たってないんで、」

どういう風の吹き回しだろう。見下ろしてくる宮地先輩を見上げることも出来ず俯いていれば「高尾に、あれはないって怒られた。木村にも」そのまま後頭部に手を回され宮地先輩の胸に押し付けるようにされて、聞こえてくる心音の速さに驚いた。
宮地先輩、私よりもどきどきしてる…。

「…お前が、高尾と緑間と楽しそうに話してっから、つい…悪かった」

宮地先輩の言い回しに、まるでやきもちを焼いてるみたいな…そんな風に聞こえて、咄嗟に顔を見ようとした。けど、後頭部に手は回ったままで顔を見上げることも出来ない。聞こえるのは宮地先輩の心音。速く聞こえる心音が移ったみたいに私の心音もうるさくなる。

「俺、お前が思ってる以上に好きだから、」
「…はい」
「遠回りとか色々するけど、」
「はい」

大好きだ、と言われてしまえば今までの事が全部なくなったみたいに。私も、先輩が好きですから安心してください。と先輩の背中に腕を回して強く抱き締めた。

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