短い話 | ナノ
放課後の教室の窓の外から見えた二人に胸の奥がツキンと痛んだ。
越前君と、竜崎さん。誰が見ても分かるように竜崎さんは越前君が好きなんだろう。きっと越前君だって満更でもない。
ああ、胸が痛いなぁ…。ぎゅっと胸元を握りしめたけど痛みは治まらない。
そっと、窓越しに見える越前君に触れた時、彼の大きな瞳と目が合って息を呑んだ。すぐに逸らすと思った越前君の目は中々逸らされなくて、耐え切れなくなった私から視線を逸らして玄関へと向かって、幼なじみの国光君を待つことにした。

「ねえ」

何度も聞いた越前君の声が玄関で響く。壁を背凭れに立っていたら目の前に越前君が立っていて、思わず周りを見回せば「苗字以外に誰もいないけど?」なんて、私の名前を知っていたことに驚いた。

「…どうしたの」
「苗字って、手塚部長の幼なじみって本当なの?」

国光君のことか…と心のどこかで残念がっている私がいて、小さく頷いた。これで会話は終わった。そう思っていたのに、越前君はそのまま私の隣りに並んで立ったまま動かない。越前君の格好はテニスウェアのままで、まだ部活の途中なのにこんな所に居てもいいのかな…。
チラッと私よりも少し背の高い越前君を見上げたら、丁度目が合って、さっき窓越しに目が合った時よりも心臓がうるさくなる。

「なに」
「え、あ…まだ部活途中なのに、国光君に怒られるよ?」
「くにみつ…っぷ、あははっ、手塚部長のことそうやって呼んでるの?」
「え?うん…?」

笑わない人だと思ってた越前君の大笑いに心の奥がムズムズとした。年相応の笑顔を見せる越前君。初めて見る越前君。きゅっと胸が締め付けられる。
そんな私たちの下に現れたのは、越前君を探しに来た桃城さんで「おい越前…って、ありゃ?苗字ちゃんこんな所で何してんの」この言葉に笑っていたはずの越前君は急にムッとした顔になった。

「何で桃先輩と苗字が知り合いなんすか」
「ん?おお、苗字ちゃん青学入学する前はよく遊びに来てたからなー」
「何で来なくなったの」
「だ、だって、越前君がいるから…」

しまった。口を押えた時にはもう遅くて、あちゃーと苦笑する桃城さんと益々怒った顔をする越前君に、私が勘違いをさせるような言い方をしたことに気付いた。違うの、と否定の言葉を入れても「何が違うわけ?」って明らかに不機嫌そうな声の越前君。嫌われてしまうことの方が恐くて、もう恥を忍んで思い切って本当の事を言った。

「越前君かっこいいから、恥ずかしくて…。そ、それに、竜崎さんと小坂田さんとかいるから…!」

そこまで言うと、今度は目を真ん丸とさせて「別に竜崎と小坂田は関係ないじゃん」って帽子で顔を隠すようにしてテニスコートに向かってしまった。残された桃城さんは、私の表情が悲しそうだったからなのか「あれ照れてるだけだから気にすんなよ?!てか、苗字ちゃんも来いよ!」と気を使ってくれて、そのままテニス部に連れて行かれた。

部活では国光君が越前君を叱っていて、目が離せないでいるとまた越前君と目が合う。けど今度はすぐに逸らされてしまって、とうとう本気で嫌われた…と胸が今まで以上に痛んだ。
帰りはずっと黙ったまま国光君の横を歩いていれば、国光君にまで心配を掛けさせてしまった。何でもない、って首を振って心配を掛けないように笑った時、門の外で立っていた越前君に呼ばれて紙を渡されて消えた。

一枚の紙切れ

書かれていたのは日時と場所。よく分からないまま向かうと越前君がいて、一緒にいろんな場所を回った。まるでデートみたいで一人浮かれていて…。帰り際には「俺は、苗字に練習見に来てほしいんだけど」と越前君は言った。
後に聞くと、それは越前君なりの告白だったらしくて、次の日から練習を見に行った私の行動は返事ということだったらしい。つまり、恋人同士っていうこと。

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