短い話 | ナノ

目の前で大きな声で騒ぐ男の子たちを見て、相変わらずバカだなぁって思ういつも通りの日々。片肘をついて、目の前の彼らを見たり空を見たりと視線を彷徨わせていれば、ひょこりと私の顔を覗き込んできた謙也くん。さっきまで一氏くんたちと騒いでいたからなのか少しだけ息を切らしていた。

「どないしたん。自分、元気ないやん」

心配してくれる謙也くんには申し訳ないけど、あなたには言えない内容なんです。…なんて言えるはずもなくって、「何にもないよ」と笑って誤魔化すと謙也くんもにっこり笑って彼らのもとへ戻って行った。
私の隣りで残った白石くんはじっと私を見て来て、正直白石くんの視線は全てを見透かしたような目で苦手だ。そんな白石くんと目が合わせられないでいたら今度は大きな溜息が聞こえて心臓が跳ねた。

「あからさますぎやろ」
「え、何が…」
「自分、見たんやろ」

見たって何を?なんて、そこまで白を切ることなんて出来ない私は小さな声で頷いた。どうして白石くんには何でも見抜かれてしまうんだろう。
白石くんが言う"見た"というのは、謙也くんの告白場面。詳しく言うなら、謙也くんが隣りのクラスの可愛い子に告白されていた場面だった。もともと謙也くんが可愛い可愛いって常日頃から言っていたから見た時は良かったじゃん、なんて思った。けど、謙也くんはそんな彼女の告白を断った。「好きな人おるから…すまん」って、聞いてないんですけど。きっと隣りの白石くんは知っているんだろう、謙也くんの好きな人というのを。

「ショックなんか?」
「まあ…だって、仲良くしてきたつもりだし、私だって謙也くんに好きな人言った時あったのに謙也くんは私に内緒にしてたんだよ?」

「片方は正直に言って、もう片方は黙ってるなんておかしいでしょ」と続けて言えば白石くんは苦笑して見せた。その顔の意味はよく分からない。私に対しての同情の笑みかもしれないし、バカにしてる笑みかもしれない。
視線をまた戻して「好きな人って誰なんだろう」と呟くと白石くんが声を上げた。ぽんっと私の頭を撫でて「自分は俺の好きな人知りたいって思うか?」なんて。当たり前でしょ。白石くんの相談相手になれたらって思ってるもん。

「…俺が苗字のこと好きって言ったらどないする?」

一瞬、時が止まったように思えた。「やだなぁ…冗談やめてよ」私が言おうとした言葉に被せるように「冗談やあらへん」と言われてしまえば心臓がうるさく鳴り始める。伸びてくる白石くんの手に体が強張って動けない。

「しっ白石!」

そんな時に謙也くんが走って来て、私と白石くんの間に手を伸ばして壁を作った。ほっとして「ありがとう」と言うよりも先に謙也くんの言葉にまた心臓がうるさくなる。

「俺が苗字のこと好きって知っとるくせに何で手出そうとすんねん!」
「えっ」
「…あっ」
「……謙也、俺はお前が遅すぎるから手助けしてやっただけやで」

捨て台詞のように言って去って行った白石くん。二人きりは恥ずかしくて引き留めようとしたけれど、謙也くんの真剣な瞳にそんな事が出来るはずもなくて、ただただ心臓がうるさい。謙也くんと話すときこんなに緊張していただろうか、と他人事のようなことを思いながら動けずにいた。

「…苗字」
「は、はいっ」
「俺、お前のこと…」

好きになったほうが負け

0712
thx:Poison×Apple