短い話 | ナノ
「話がある」

私のクラスに来た大地は、私の席の前に立つなりそう言った。小さな頃から実の兄よりも優しくて兄らしかった大地とは、高校に入ってまともに話すのは片手で数えられるくらいになっていた。それは当たり前だ。クラスも部活も違う。私は帰宅部だったから大地と一緒に帰れたけど、大地の部活が終わる時間は遅くて、私が待ってるなんて気を負わせたくなくて先に帰ったりしたから一緒にいる時間は本当になかった。
もともと人見知りをするタイプの私はいくら幼なじみとは言えども数年も話さなかったら人見知りを発揮してしまい、つい目線を彷徨わせる。

「ど、どうしたの」
「…やっぱ人見知りしてるのな。まぁ、俺が放置してたんだししょうがないか」

苦笑して頬を掻いた大地に申し訳なくなりながら、膝の上で拳をきゅっと握った。
俯いて顔を上げない私の頭にぽんっと大地が手を置くと、少しだけクラスが騒がしくなって、余計に気恥ずかしくなる。大地は、学業も部活も両立しているっていう面でも目立っているし、何しろ主将ということもあって少しだけ有名人なのだ。そんな大地に目線が集まるのは当然のこと。だけど、私はあまり目立つことは苦手で、大地のせいで顔から火が出そう。

「今度合宿があるんだ」
「う、うん」
「それで、お前にマネージャーして欲しいんだ。清水だけだと大変だろうからさ」
「えっ、わ、わたしがマネージャー?」
「ああ。名前は清水とも仲良いだろう?」

そりゃあ、入学当初の時は大地ともよく一緒にいたから、その時に潔子ちゃんを紹介されてからはずっと仲良くしてる。というか、してもらってる。
「清水を助けると思って、な、頼むよ」なんて、潔子ちゃんを引き合いに出されてしまったら断れないじゃない。「うん…」と渋々頷くと、顔を見なくても分かるほどの大地の明るい声が聞こえて、少しだけ嬉しかった。





「…っわ、」

合宿初日。ジャージに着替えて先に行って準備をしてくれている潔子ちゃんのもとまで急いで体育館に入れば、菅原くんが上げたボールをスパイクする大地がいて、目が離せなくなった。
高いジャンプに、強くボールを叩き付ける音。なんだか大地が違って見えて、キラキラと輝いていて、初めて知る大地に胸がうるさい。
私に気付いた大地は笑って手を振ってくれたのに、かあっと熱が集まって恥ずかしくて無視するように潔子ちゃんのいる所まで急いだ。

恋と呼ぶにはじれったい
(な、なにこれっ)(あれ…無視されたんだけど)(大地、ドンマイ!)

0618
thx.夜途