短い話 | ナノ
笑う口許を手で隠すところや、恥ずかしくなると俯き気味で髪の毛の先を弄りながら唇を尖らすところも、ぴんと背筋を伸ばして立つところも、とてもキレイでよく通って俺の名前を呼ぶ声とか、全部が好きだった。

いや、だったじゃなくて、まだ好き。

「祐希」

目の前で笑う彼女の笑顔は少し幼くて、きっと高校の時の笑顔だ。あの頃は、よく一緒にいて悠太たちもいて、みんなで体育祭や文化祭を楽しんで、受験勉強を頑張って、それから別々の大学に進んで、でも初めのころはみんなと会ったりして、遊んだり、高校に行って茉咲や松下くんに会いに行ったりした。

……それから、いつからだったかな。
会う約束をしても、全員じゃなくて集まるのは、2人だったり3人だったりして…、それで俺と彼女しか時間が合わなかった時、どんな…話を、したんだっけ…。


大学で同じ単元を取ってる人に告白されたの


あ、そっか。そんな話をされたんだ。それで俺はなんて言ったんだっけ。


へえー

どうしたらいいと思う?

知らない。自分で決めたら

……いいの?祐希は

俺には関係ないでしょ、それ

なに、それ。…じゃあもういいよ!


そっか。俺、あんな酷いことを言ったんだ。昔も今も、彼女を一番好きなのは俺だけだって思ってるのに、馬鹿なことしちゃった。俺だけが幸せにできるとか、結婚するんだ、とか小さな頃に散々言ってたのは俺で、それに嫌な顔を一つもしないで嬉しそうに笑って頷いてくれてたのに。

「祐希」
「……」
「    」


目の前で笑う彼女は、俺の夢に出てきて、いつも聞こえない声で何かを言って、それで俺は目が覚める。
このまま俺が目を覚まさなかったら、ずっと一緒にいられるのかな。最後の言葉が聞こえるようになるのかな。

また、もとの世界でも笑ってくれるのかな。

夢なら幸せになれた

拝啓、僕の大好きなきみへ
また俺のところへ戻ってきてください。それで、結婚をしよう。小さな時に約束したことを実行しませんか。必ず幸せにしてみせます。俺ときみにそっくりな双子を作って、家に帰るときみが笑っているような暖かい家が欲しいです。また、きみに笑ってほしい。だから…、。

111220
企画サイトそれでも世界は廻る様へ提出。参加させて頂きありがとうございました