短い話 | ナノ

異性でのトモダチなんてあるわけない、なんてよく言われるけど、きっと私と西谷はそのトモダチが成り立っている。特別な感情があるわけでもなくて、バカし合うような友達関係にある。好きとか、そういう男女間にあるようなものは一切ない。

「俺、お前が好きだ」

少なくとも私はそう思っていた。
目の前で、顔を赤くするわけでもなく堂々とした振る舞いで西谷はそう言い切った。私も特に顔を赤くするようなこともなくって、目を何度か瞬きさせて遅れてきた笑いが出る。

「なーに、罰ゲーム?」
「ちげぇ!」
「…でも、私と西谷は友達でしょ」

ムッと怒った顔をして私を見る西谷の目にからかうなんてことが出来なくなって、何とか出てきた言葉を言えばより一層厳しい顔をして「俺は最初から友達として見てなかった」なんて。そんな寂しいこと言わないでよ。
きゅっと握りしめた手のひらに爪が食い込んで痛い。

「お前が俺のこと男として見てないのは分かってた」
「…」
「それでもいいって思ってたけど、俺、やっぱ無理!」
「…なにそれ。それが告白する人の表情かっつの」

ニコニコと満面の笑みをして、一切顔を赤くしない西谷。いっそ清々しいくらい。それでも西谷のことは友達以外に見る事なんて出来なくて、消えそうなほど小さな声で「ごめん」なんて言ったけど「気にすんな!」だって。男らしいなぁ。
じゃあ戻ろうか、なんて身を翻した途端に「でも!」と西谷の大きな声が聞こえる。周りにいた人たちも驚いてこっちを見た。

「でも、別にお前のことを諦めるわけじゃねぇから!」

いたずらっ子のような笑顔をして「早く戻ろうぜ!」って私の手を握って走り出した西谷。手のひらから伝わる熱に心臓がむずむずとする。
うるさい、静まれ…!きゅっと胸元を握りしめても心臓が止まるはずなくって、このまま手のひらから西谷に伝わったらどうしよう、なんて考えてまたうるさくなって。きっとこれは走ってるせい、そうだ。
すぐに答えを出すのはやめてひとつ深呼吸をした。

ときめくなよ心臓

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