短い話 | ナノ
「おい」
「…何ですか、会長」

授業が終わって一分もしないうちに廊下からの窓で私を呼ぶ跡部。ちなみに私の席は跡部が呼んだ窓のすぐ傍だ。席に着いたまま跡部を見上げると、ただでさえ背も高いのに一段と高い。それに、下から見上げても綺麗な顔をしていて何だか腹が立ったから席を立って。

「これ」
「…何で今渡してくるの」
「覚えてるうちに渡すのが常識だろうが」
「知らないよ…もう、荷物が増えるじゃない」

毎日、毎回生徒会の書類を持って来ては私に押し付けていく跡部にいい加減慣れてしまった私もその書類を入れるためのファイルを用意している。そのファイルに入れると跡部はふんっと鼻で笑ってチャイムが鳴る前に教室に戻って行った。
そこらへんの常識はきちんとあるみたい。跡部が消えた窓を見て私も一息吐くと隣りの席の宍戸が「大変だな」なんて。

「ほんと、跡部なんとかしてよ」
「いや、それは無理だ」
「なんでよ、慣れてるんじゃないの」
「慣れてるけど…俺は跡部応援してっからよ」

応援?宍戸の言葉に首を傾げて、その言葉の意味を聞こうと口を開いたらタイミング良く先生が入って来て授業開始の声がかかった。慌てたように起立して、挨拶をして。隣りの宍戸を見たら真面目に勉強モードに入っていて、さっきの言葉の意味を聞ける雰囲気でもなかった。

***

「おい、宍戸」

いつもと同じ窓に身を預けた跡部にまた来た…と呆れていると、跡部は私じゃなくてその隣りにいる宍戸に声をかけた。私を間に挟んで会話をする二人の邪魔にならないようにと後ろのロッカーに教科書を取りに行こうと席を立とうとしたら、くいっと髪の毛が何かに引っ張られていて前に進めなかった。
振り向くとニヤリとドヤ顔の跡部がこっちを見て「どこに行こうとしてんだよ」と、何で跡部に言わないといけないの。

「離して、痛い」
「そんな強く引っ張ってねぇよ」
「後ろに行くの、離して」
「アーン?」

いくら言っても聞く耳を持たない跡部はぐちゃぐちゃと私の頭を乱暴に触ると笑いながら消えて行った。ぐちゃぐちゃになった髪の毛を整えながら隣りに座る宍戸を睨んだら何だか笑っていて、余計に腹が立った。

「何で笑ってるの、腹立つんだけど」
「笑顔でそのセリフ怖ぇよ……いや、跡部が嬉しそうだなって思ってよ」
「はあ?意味分からない、宍戸頭大丈夫?」
「う、うるせぇ!」

結局宍戸の言葉の意味も分からないし、今日の宍戸は相変わらず変だったし…。

昼休みも跡部が来て、業務連絡があるとかで一緒に学食を食べることになって宍戸にも来てもらったら案の定テニス部のよく騒がれてる連中が来て、みんな私と跡部を見ては変な顔をするから余計にイライラして一番近くにいた忍足を殴ってなんとか抑えた。

好きなコにはいじわるしちゃうタイプ

「っていうわけや」突然始まった跡部についての説明に私は首を傾げるしかなくて。「ホンマ、自分分かっとるん?」「え、あぁ…跡部は青春学園の手塚君が好きってことでしょ」「は!?」「だって何度か意地悪言ってるの聞いたことあるよ」私の言葉を聞いて呆れ返る宍戸と忍足、大笑いをする向日と芥川、笑いを堪える日吉君と鳳君、焦った様子の樺地君。そして、今にでも怒りそうな跡部。

0518 thx:家出