短い話 | ナノ
バシン、ゴツン。大きな音が部室で響いた。
その音の原因は私が一氏ユウジに思いっ切り頭を叩かれた音。そんで、その叩かれたことによって額を思いっ切り机にぶつけてしまった音だった。
部室内におった皆は唖然としとるし、それは私だって例外やない。
後頭部と額の痛みに眉間に皺を寄せながら、原因を作った本人を見上げればいつになく怖い顔で私を見降ろしていた。

「何やのん、急に叩くなんて。しかも思いっ切り」
「黙っとれ」
「はあ?意味分からんわ」

ガンを飛ばしてくる一氏に負けじと言い返す。いつも口喧嘩はしとるし、そんなんは周りだって知っとることやけど、雰囲気にアカンと感じたんか白石らが止めに入って来た。一氏を私から成る丈遠くへとやった後に白石が心配そうに私の赤くなった額を触って、湿布貼ったろうか?と首を傾げた。別にええ、と首を振り謙也と小春から事情聴取みたいなんをされとる一氏の背中を睨む。

「何かあったんすか、先輩ら」
「知らん」
「せやかて、ユウジがあんなキレとるん初めて見たわ」
「もともとアイツキレやすいやん」

目の前で苦笑をする白石に知らんもんは知らん、と話を終わらせて書いとる途中やった部誌に目を向ける。
ああ、もうホンマ腹立つわ。叩かれた時にズレた字を見たら余計にイライラが増して来て、こんままやったらキレてしまうくらいに怒りが頂点に達して。おまけに何度も聞こえる一氏の大きな声が私の事を言うてるって思うと、イライラムカムカとしてきた。
アイツが悪いねん!って何やのん、それ。なんもしとらんわアホ。気がついたらぐりぐりと意味のない毛虫みたいなんを部誌に書いとって、金ちゃんに何書いとるん?って首を傾げられた。

事の発端から数十分ほど過ぎた。一、二年を帰宅させられ部室には今はレギュラーだけが残っとった。ホンマは財前と金ちゃんも帰宅を促されとったけど、財前は暇やから、とか野次馬で、金ちゃんはみんなと帰りたいという可愛らしい理由で残った。
そんでやっと一氏の話が纏まったんか知らんけど、三人が私らの所に戻ってくる。相変わらず一氏は私にガンを飛ばしとるけど。

「悪いなぁ、名前ちゃん。ユウくんが殴ってしもうて」
「小春が謝ることやないよ、一氏が悪いんやし」
「せやけどな、ユウくんの気持ちも分かってもろてもええ?」

眉を下げて笑った小春の隣りで謙也も苦笑しとった。そうして小春と謙也は本当の原因を話しはじめた。

***


それは昼休みのことだ。普段は小春と一緒にいるはずのユウジは、小春が先生に呼び出された事によって一人でブラブラと校舎の中を歩き回っていた時だった。
あまり人気のない連絡通路を歩いていた時、告白の言葉を耳にしたユウジは何となく声の聞こえる方まで足を進めた。そこにいたのは同じクラスでマネージャーの名前と、またも同じクラスの男子がいた。

「お、おれ、苗字さんが好きやねん」
「え、あ、ごめん。私…」
「やっぱし一氏と付きおうとるってホンマなん…?」
「いや、付きおうてないけど」

淡々とそんなことを言い捨てる名前。少なからずユウジはそれに寂しさを覚えて、イライラしてしまい本人に当たった、そして現在に至る。

***


「…せやけど、ホンマに付きおうとらんやん」
「……こんの、どアホが!死なすど!」
「は?ホンマに意味分からんわ」

原因になっとらんやん。私がそう言うと、やっぱしなという感じで小春と謙也はまたも苦笑を見せた。横でキーキーと怒鳴る一氏を止める白石までもが苦笑しとって。
ホンマ意味分からへん。

いつまで待っても青春は始まらない

なんか知らんけど、みんなが一氏に同情しとった。同情して欲しいんは私やのに、未だに後頭部も額も痛むんに、意味分からん。ぶ、と口を尖らせとったら小春が今日はユウくんと一緒に帰ってくれへん?と頼まれたから、財前の真似してしゃーない、と頷いた。その後に小春やみんなに勇気出せって応援されとった一氏に告白されるんは、もうちょい先の話。

1105 thx.P×A