短い話 | ナノ
暑い日差しの下が眩しくて、唯一出来ていた小さな木陰へと入る。雨が降ったり、ギンギンに晴れたり。全く忙しい天気だ。
鞄の中から探し出したハンカチで、たらりと首筋を辿って落ちていく汗を拭い。そんな俺の目の前を通り過ぎていく、太陽に負けないほどの白い肌が輝く持ち主の腕をふいに掴んだ。

「…森、山くん?」

そりゃあ驚くでしょう。一人うんうんと頷き、もう一度彼女と目を合わせて、おはようと声をかけた。うん、おはよう。優しい物腰で彼女は言い、わたがしのようにふんわりと微笑んだ。

「どうしたの、これからバスケ?」
「ああ。苗字さんは?」
「私はね、ちょっとふらふらと」

俺のスポーツをします、というような格好とは正反対に、水色の腰にベルトがしてあるワンピースを着ている彼女。ふらふら、なんて言ってるけど、本当はデートなんじゃないのかと疑うほどの可愛い格好だ。
気付かずに腕を掴んだままの手に少しだけ力を込めて、ストバス見に来ない?と勢い余って誘った。
ああ、絶対苗字さん困ってるだろうな…。

「ストバス?あ、ストリートバスケ?」
「そう。笠松たちとやるんだ」
「楽しそう。行こうかな、暇だし」

にっこりと微笑む彼女が眩しくて。可愛くて。
苗字さんと向かったコートでは既に笠松たちが始めていて。俺を置いて始めるなんて酷いじゃないか、と訴えればきょとりとした笠松が俺たち二人を交互に見る。

「センパイ!なんで女の人と一緒なんスか!」

笠松が口を開くよりも先に黄瀬に問われて。クラスメイト、さっきそこで会ったから誘ったんだ。ごく普通に、ごく当たり前のように言った。本当は、一緒にいたかった。一人にするのが心配だったから。なんて、彼氏でもない俺が言えるわけないから。
隣に立つ苗字さんも、笠松と同じようにきょとりとした顔をして。そうかと思えば、綺麗に、可愛らしく笑い出した。

「…ふふっ」
「どうしたの?何か面白かった?」
「ううん。みんな仲良しなんだなって思って」

可愛い。可愛い可愛い。本当に可愛い。抱き締めてしまいたいくらい可愛い。
ぼんやりと苗字さんに見惚れていたら笠松に頭を叩かれ、さっさとすっぞ!と引きずられた。乱暴な笠松に俺は頭を悩ませながらコートの中からでもキラキラと輝く苗字さんに目がいく。ひらひらと手を振る彼女は、周りに集まり始めた女の子たちの誰よりも輝いていて、可愛くて。

炎天下のもとに僕の太陽
(これはもう、末期かもしれない)

0907