短い話 | ナノ
「二人って付き合ってるの?」

いつものように渚と怜が俺たち二年の教室の遊びに来ている時、渚が真剣な顔をして俺を指差して言った。二人って、もう一人が誰かなんて直ぐに分かった俺は焦って、付き合ってないよ、と否定の言葉を入れて。
そっと盗み見るように、二人という表現の中に入っている人物を見ると他の子と楽しそうに話していた。

「だってさー、まあハルちゃんもだけど、三人って幼なじみでしょ?」
「そうだけど、幼なじみは関係ないよ」
「そんなことないよ!実際にマコちゃんは…」

立ち上がって大きな声を上げる渚の口を慌てて塞いで。ハッキリとした言葉は言ってないけど注目を浴びる事になって。お騒がせしました、と笑って謝るとみんなも笑って許してくれたから良かったけど、渚はもう少し周りを見てほしい。
第一、当の本人もこのクラスにいるんだし。ちらっと見れば、クスクスとこっちを見て笑っていた。ああ、もう恥ずかしい。予鈴がなるよ、と手早く二人を追い出して。

***

「…で、ハルちゃんはどうなの?名前ちゃんのこと好き?」
「またその話するの?もうやめ」
「好きだ」
「……え!?」

放課後になり水泳部の活動前の着替え。更衣室でも昼の話を始める渚に呆れながら止めようと思えば、ハルの発言に驚いてしまった。ハルからそんな事一度も聞いたことない。それよりも、ハルとライバルというような形になってしまったことに青ざめて。

「よく、鯖を持って来てくれる」
「な、なんだ…ハルの好きは違う好きかぁ」
「? 好きに違うも何もないだろ」

良かった。ハルがそういうのまだ分からなくて。幼なじみで一人の女の子を取り合うなんて、少女漫画のよくある展開になってしまうところだった。
一人息を吐いて落ち着いていれば、まだ甘い!とまた大きな声を上げる渚。怜は怪訝そうな顔をしながら渚を見ているけど、気にする様子なんて渚には感じられない。

「凛ちゃんだよ!凛ちゃん!」
「え、凛?」
「知らないの?スイミングクラブの時、凛ちゃん名前ちゃんの事好きって!」

渚の言葉とほぼ同時に更衣室の扉をノックされて、早く出ておいでよ、と可愛らしいソプラノの声が更衣室の扉を開けながら届く。渋々とみんなが更衣室を後にしていって、通り過ぎざまに名前と目が合う。
…凛が名前の事を好きだったなんて。何のことか分からない名前は首を傾げていて、あのさ、と声を上げようとすれば渚が間に入ってきて。名前ちゃんはマコちゃんのこと好き?なんて、ハルに聞いたように聞く渚。本当に、渚は嵐を呼ぶよね…なんて呆れながらもドキドキと変な汗が出てくる。

「好きだよ、もちろん」
「わあ!良かったね、マコちゃ」
「ハルのことは?」

喜ぶ渚の言葉を遮って聞けば、また同じように笑って好きだよと言った。ありゃりゃ、と渚が肩を落として。だけど俺としては、なんだか嬉しかった。だって、ハルにしろ名前にしろ、昔と変わってないっていうことが分かるから。
いつものように笑って、俺もハルも名前が好きだよ、と頭をぽんっと撫でてプールサイドへと足を運んだ。

ラブとライクの違いについて
(よーし、僕たちが名前ちゃんに違いを教えよう!ねっ、怜ちゃん!)
(何で僕も巻き込もうとするんですか!)
(ハルちゃんにも教えてあげるからねっ!)
(俺は、別にいい)

0819
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