短い話 | ナノ
ぶくぶくと酸素の気泡が上へ上へとあがっていく。太陽がキラキラと透けていて、水の世界って本当に綺麗で、惚けてしまう。水の世界に、ハルちゃんに。
酸素が足りなくなって水面へと上がろうとすれば、手首を掴まれてしまいキス。酸素を送り込まれて、口から抜けるものがぶくぶくと泡へ変わっていく。クラクラとする頭でハルちゃんの胸板を叩けば、やっと解放されて水面へと上がることが出来て。

「ハルちゃ、…きついっ」
「息続かなすぎ」
「だって水泳習ってないもん」

背面で優雅に泳ぐハルちゃんは私の方なんて見ていなくて、水を楽しんでいた。なんだかそれが寂しくて、ハルちゃんに引きずり込まれたせいでずぶ濡れの制服でプールサイドへと上がった。水の中にいるハルちゃんって、凄く綺麗なのに一人ぼっちにされて寂しいなぁ。膝を抱えて輝く水面に浮かぶハルちゃんをじっと眺めて。

「うわぁっ、名前ちゃん、これ!これ着て!」

更衣室から出てきた真琴くんが私を見るなり目を押さえてジャージを差し出してきて、首を傾げながらもそれを受け取った。ハルちゃんよりも大きなジャージに、余った袖の部分をぶらぶらとしていれば、プールから上がったハルちゃんに睨まれる。何で睨まれたのか分からない私は、ハルちゃんの後ろをついて行って。

「…ん」

無表情のままハルちゃんに渡されたのは、ハルちゃんのジャージで。真琴くんから借りてるからいらないよ、と首を傾げてもそのまま胸に押し付けられて、真琴くんのジャージを取り上げられた。仕方なくハルちゃんのジャージを着れば、チャックを一番上まで上げられて苦しい。

「前閉めないとダメ?」
「ダメ」
「暑いよー」
「下着、透けてるから」

ハルちゃんの言葉に、思考回路が停止した。パチパチと瞬きをして、よくよく考えてみると、ハルちゃんに引っ張られてプールに入ったおかげで透けたんだ。だから真琴くんは驚いてジャージを貸してくれたんだ…。
一気に恥ずかしくなって顔を隠して。だけど、ふと思ったのはハルちゃんは私に自分のジャージをわざわざ渡して、着替えさせた。ということは…

「嫉妬、しちゃった?」
「…うるさい」

ふいっと目を逸らしたハルちゃんはそのままプールに飛び込んで行って。水飛沫が私の頬の熱を冷ましてくれた。

夏休みは、晴天なり。

0805