短い話 | ナノ
くるくると毛先を遊ばれ、やめてほしいと頼んでも相手の男はニンマリと笑うだけで、やめる気配なんて感じられない。鬱陶しくて彼の手を払っても、表情は変わらず笑っているだけ。気味が悪いその笑顔に、どうかしたの、と彼の頬に触れれば私の手に自分の手を重ねられ、暖かい温もりが伝わる中で、何か冷たいものを感じる。

「何でもないけど」
「じゃあ何?変だよ」
「そ?変なのはソッチっしよ」

キラリと光るように感じられる目に、少したじろいでしまって彼の頬に触れていた手が離れる。私は何も悪いことはしていない、ぐるぐると暗示をかけて大丈夫と深呼吸をすれば、それを見逃さなかった彼が私の唇を塞いだ。呼吸が出来なくなり、生温い吐息が鼻から抜けていく。苦しくて、頭がクラクラとしてきて、我慢も出来なくなった頃に彼の肩を叩き、離れてと意思表示をすれば、最後に私の唇を舐めて彼が離れてくれて。

「…本当に変だよ」
「変じゃないけど。それとも昨日のキスを望んでんの?」

彼の言葉に首を傾げる。それもそうだ、彼と私は昨日はキスどころか会ってすらない。不思議だと首を傾げる私に思い当たる事は一つしかなく、一気に体中から冷や汗が噴き出るようだ。
餌を欲しがる魚のように口をパクパクとしてしまい、遊ばれていた毛先を勢いよく掴まれた。

「お前が俺から離れようとしたって、俺は離さないから」
「離れようとなんて…!」
「好きとか嫌いとかじゃなく、憎み愛し続ける」
「高尾…っ」
「これから永遠に一緒っていうやつっしょ」

ギリギリと髪を掴まれ、痛いと声を荒げても彼は笑うだけで、聞く耳も持ってくれず。

憎しみ
(他を選んだお前が憎い)

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