短い話 | ナノ
目の前が眩むような照りつける太陽が私の脳を刺激する。蒸すような暑さに制服がしっとりと肌に張り付くような感覚が気持ちが悪くて、襟の部分を掴み風を送り込むようにパタパタとさせて少しでも気を紛らわせようとしていればヒラヒラと降ってくる紙屑。
太陽に透けた一枚の紙の文字が私の目に止まって、これをばら撒いた犯人が分かり見上げてみれば、予想通りの犯人は薄らと口角を上げて見下ろしていた。睨むように見上げても彼は動じずに奥の方へと引っ込んで、残ったのは無意味になった紙屑だけだ。

重い足取りで一つ一つ階段を踏みしめて上がり、人の気配が全く感じられない廊下の奥の教室へと進む。無人の教室の一番後ろの席で頬杖をついて黒板を見つめる彼がいて、彼の机に先ほどの紙屑を乗せた。紙屑を見下ろす彼は無表情のまま目の前に立つ私を見上げて、遅い、と声も出さずに言う。

「いい加減にして下さい」
「それは俺の台詞だ。毎度頼んでもいないのにお前が持ってくる、友だちが書いたという手紙を読まされて俺にどう返事をしろって言うんだ」
「知りません。それは先輩が決める事でしょう」

私にあたらないで下さい、と突き放すように赤司先輩を睨みつければ彼の目も鋭いものへと変わって冷たい空気が流れる。野球部の練習の声、蝉の声、風に揺られるカーテンの音、全てが酷く煩く聞こえてしまって。フッと笑った彼は取り敢えず座ったらどうだ、と彼の座っている前の席を指差して足を組んだ。彼の足組に話しが長くなることを悟って、彼の方へと椅子を向けて座ると本題に戻すように冷たい視線を私に向けた。

「お前が持って来なければ良い話だろ。なぜ本人ではなくお前が持って来るんだ」
「彼女たちが恥ずかしいって言うからです、他に理由がありますか?」
「へえ。俺への当てつけかと思ったが」
「…当てつけ?私が?」

何を言うんだ、この人は。私が彼に当てつけをする理由なんてどこにあるというのだろうか。もしそれでも当てつけだと言うのなら、私は彼が嫌いだからだろう。
クスクスと笑い声が聞こえてハッとして目の前を見てみれば、口元を抑えた彼が笑いを堪えるように肩を揺らし笑っていた。図星という顔をしている、と言った彼に無償に腹が立ってしまって、もういいです、と席を立とうとすればスルリと抜かれた胸元のリボン。

「…返してください」
「…」
「返してって…」

手を伸ばして、彼の手に持たれたリボンを取ろうとすれば、髪の毛を思い切り掴まれ引っ張られてしまい、気がつけば彼とキスをするような形になって。茫然としてしまったけれど、直ぐに離れようと思ったけれど後頭部に回った手の力には逆らえず、私と彼の間にある机がそっと倒れていく音がする。

地表の体温が上昇していく。
私の体温が上がっていく。
脳が、クラクラと何も考えられなくなる。

離れた時には、息も出来ないほど苦しくて大きく呼吸を繰り返すだけ。睨む私と妖しい笑みを見せる彼。この顔が腹立たしい。私が彼への文句の言葉を発するよりも先に、また唇を塞がれて、脳に電流が走ったようになって何にも考えられなくなる。目の前に広がる赤に、きっと夏の暑さにやられたんだろうと錯覚を起こした。

世界一嫌いで宇宙一愛してる
(先輩なんて大嫌いです)
(そう?俺はお前を愛してるけど)


0525
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