短い話 | ナノ
「…ムカつく」

みんなが練習している中で紫原が私の所に来たかと思えば、唐突に文句の言葉をぼそりと呟く。ムカつくなんて言われたって、理由も分からない私にとっては困る。
お菓子を食べるな、と赤司に言われて、今の間没収されているから気が立っているのかもしれない。あと少しの辛抱だよ、と手に持ったボードから目を離さずに答えた。ダルそうにでも返事をする紫原が黙ってしまい、2メートルも超える巨人を見上げれば、いつもの緩い感じはなく、殺気立たせて見下ろしてくる。

「な、に…」
「何をしているんですか」
「なに黒ちん、邪魔なんだけど」
「苗字さんが怖がっています」

いつの間に来たのか、黒子が私と紫原の間に立ってくれていた。フッと抜けた力と共に息を吐く。いつも以上に突っかかる紫原に、負けずと対抗する黒子の雰囲気はどんどん悪くなっていき、とうとう赤司が気付いて止めに入ってくれる。

「お前たちは何をやっているんだ」
「…名前ちんが悪いんだし」
「え、わ、私?」

私が悪いと言って譲ろうとしない紫原に呆れた赤司は、体育館から私たちを追い出すと、和解するまで入れないと言い、容赦なく扉を閉められてしまった。
正直、こんな状況で紫原と二人きりにしてほしくなかった。ひねりつぶされてしまう。

「あのさ、何か…ごめん?」
「何でか分かってんの」
「いや、よく分からないけど…」

ごめん、ともう一度謝罪の言葉を言うと盛大に溜め息を吐かれてしまい。溜め息吐きたいのはこっちなのに。
名前ちんてバカなんでしょ、と暴言まで吐かれてしまう。さすがに私も怒ってしまい、怒鳴るようにどうしろって言うの、と声を荒げる。

「少しは自覚しろって言ってんの」
「自覚って何を?」
「…もういいし。知んないし、名前ちんのことなんて」

私の返答を聞くより先に体育館に入ってしまった紫原の後を追うように私も入っていく。まだ話は終わってない、と声を掛けるも聞こえてない振りをされてしまい。言葉で言わないと分からない、と最後の気力を振り絞って言えば、くるりと振り返り私を見下ろす。

「他の奴と仲良くしすぎって言ってんの」

数秒間を空けて、赤司がクスクスと笑い出した。赤ちんうるさい、と紫原は言い、そのまま練習に戻っていった。結局、意味が分からなくて、また後から聞いてみれば、今度こそ本当にキレられてしまった。

言葉足らずの僕に勇気を

紫原がいない時に、レギュラーのみんなに愚痴れば、私が悪いと一刀両断されてしまい。それでも意味の分からない私にとっては理不尽なだけで。首を傾げる私に、その場にいた全員が紫原に同情をした。

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