短い話 | ナノ
「名前さんのルフは、ピンク色をしているね」

突然のアラジンの言葉の意味がわからずに固まった。それから、数秒後に分かってから、かあっと顔が熱くなる。人差し指を口の前に立てて見せると、首を傾げて不思議そうな顔をした。
アラジンみたいな小さな子には、ルフがピンク色をしている理由とかは分からないのだろうけど、言われてしまうと恥ずかしくなる。ちらりと視界の端に映るジャーファルさんを見て、また顔が熱くなった。速い鼓動を落ち着けようと小さく深呼吸をしていると、ポンと肩に手が置かれて大袈裟なほどに体が反応して肩が上がる。

「なにビビッてんだよ」
「…っな!違うよ!シャルが急に…っ」
「ま、いいけどよ。お前に頼みがあんだよ」

にっこりと笑顔を浮かべるシャルに嫌な予感しかしなくて、恐る恐る聞いてみれば、ただ買い物に付き合って欲しいらしい。剣を見たいと言っていて、そんなのマスとかスパルトスにでも付き合って貰えばいいのに。
剣のことを全然知らない私に聞いても、何にもないよ。そう伝えても、マスルールとスパルトスに断られたんだよ、とイライラした顔をしていた。スパルトスは大丈夫だろうけど、マスってばまたシャルに苛められちゃうね、なんて頭の片隅で考えたりして。

「名前」
「は、はいっ」
「書類整理、手伝ってもらえませんか?」
「ちょっとジャーファルさん!コイツは今から…」
「仕事が優先です」

後ろで騒ぐシャルに申し訳なりながらも、ジャーファルさんの言葉を断れるはずもなくついて行く事にした。まあ、きっとアリババくんの所に行くと思うけど。


コツコツと靴の音が廊下に響く。辿り着いた書庫で、ジャーファルさんに指示された本を探す仕事をしていた。各国々から集められた本がズラリと並んでいて、物語だったりシンさん著作の本だったりと、端から端までのジャンルが取り揃えられている。最後の一冊を探し終えて、調べものをしているジャーファルさんのもとへと持って行った。

「…シャルルカンと仲良いですよね」
「あ、はい。同期なので」

書類から目を離さないジャーファルさん。一緒に調べるべきかと思ったけれど、何をしていいのか分からないし、頭の中は真っ白で。じゃあこれで…とその場を離れようとすると、そっと顔を上げたジャーファルさんの視線と私の視線が交わる。

「シャルルカンの前で笑うように、私の前でも笑ってもらえませんか?」

それはとても真剣な顔で。高鳴る心臓を抑えるように、この心音が聞こえない事を祈るように、手を握りしめる。緊張や嬉しさで、言葉が出てこなくて。何度も首を縦に振った。すると、優しい笑顔を浮かべて、ありがとうございます、と。その笑顔が私に向けられたのが嬉しくて、かあっと熱くなる頬を隠すように失礼します、と急ぎ足で書庫を出て行った。

君を想うこの熱を
(…顔、赤いすよ)
(も、もうっ、マス!しっ!)
(…はあ)
(ジャーファルさんには言わないでね!)

0315