短い話 | ナノ
この頃、溜め息しか出て来ない。原因はきっと、最近出会った彼女にあるんだろう。今でも、グラウンドでニコニコと笑顔を絶やさない彼女は、ニャンコ先生と話している。はあ、と大きな溜め息を吐いた途端、先生から当てられて、はいっと大きな声を出して立ち上がってしまった。クラスのみんなはクスクスと笑う。恥ずかしくて苦笑いをしながら頭を掻いた。そっとグラウンドを見てみれば、彼女も俺の方を向いて笑っていた。何だか、すごく恥ずかしい。



「夏目様!」
「よく大人しく待ってたな」
「はいっ。夏目様の為ですもん」
「夏目、こいつ相当ヤバいぞ」

靴を履いて外に出た途端に飛びついてきた名前に、はいはいと言って頭を撫でてやった。ニャンコ先生は短い足で、ゆったりと近付いてきて、名前を見ながらその台詞を吐いた。
ヤバいって、どういう風にだ?
まだニコニコと笑い、俺のもとを離れない名前をチラリと見て、ニャンコ先生に問うた。

「夏目のことを、相当好きみたいだ」
「ダメなんですか?」
「ふん。人間を好きになってどうする」

キョトンとした名前の表情は、どこがいけないんですか、と言っているようなもので。ニャンコ先生は、そんな名前の純粋な表情に汗を流して、いつか罰が下るぞ、と言い放った。
どうして人間を好きになってしまっただけで罰が下るのだろう。妖怪だって生きているんだ。恋をすることなんてあるのに。
どうも俺にはニャンコ先生が間違っているようにしか聞こえなくて、首根っこを掴んでそんなこと言うな、と言おうと思えば名前が被せて喋って来た。

「例え罰が下っても、夏目様が好きです」
「名前、」
「夏目様を好きになれて良かったって、心から思えます」

ふんわりと微笑んだ彼女の周りを桜が待った。どこにも、桜なんて咲いていないのに。まるで彼女の言葉が別れを指すようで、焦りを感じた。そっと彼女の手を掴めば、桜は消えてしまい、帰りましょうかと彼女は笑った。




強く握りしめた彼女の掌。嬉しそうに笑って、頬を染めて。絶対に離さないと思った。もし、彼女がいなくなってしまえば、世界中を探そうと心に決めた。たとえ、妖怪が見えなくなったとしても、俺だけは彼女を忘れずに探し続けよう。そう心に誓った。

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