短い話 | ナノ
至る所でボールをつく音が響いていたこの体育館は、今は静まり返っていて、みんな休憩に入っていた。誠凛に負けたあの日以来、少しだけ真面目に練習に来るようになった青峰は、桜井くんに「アレ」と一言だけ言えば、キレイな形をした兎のリンゴが出てきた。

「わあ、桜井くんが切ったの?」
「あっはい!スミマセン!」
「お前とは大違いだな」
「うるさいアホ峰」

本当に、とてもキレイに切れているリンゴは、私の母親が作るものよりも上手で…。桜井くんって、女子力高いなぁなんて言葉が漏れてしまう。途端に、にやりと気味の悪い笑みを浮かべたアホ峰。あ、絶対変なこと言うな。察知して、すぐにでも話題を変えようとしたけれど、青峰の方が少しだけ早かった。

「じゃあお前は男子力高ぇから、良を嫁に貰えばいいじゃねぇか」
「なっ!?青峰、とうとうやられたの?」
「何でだよ」
「だって、桜井くんは女子力高くて、とーってもイケメンなんだよ?私毎日照れるじゃん、…あ」
「つーかお前、言いことそこかよ」

うわ、もうバカ何言ってるのよ、私ってば。目の前には呆れ顔の青峰と、ぽかんと可愛らしい顔をした桜井くんがいて。遠くのほうでは、楽しそうに笑うさつきと、馬鹿笑いをする若松センパイ。ああ、もう…!腰抜けて逃げられないし、てか、何でこんな所で腰抜けるの。熱くなってきた顔は、真っ赤に染まっているのだろう。それを隠すように、俯いて、何でもないの忘れて、と言うしかなかった。

「あ、あの、リンゴ…食べますか?」
「おいおい、良。言葉が違ぇだろ」
「ス、スミマセン!」

桜井くんの言葉に拍子抜けして、でも、その言葉が嬉しくて、ありがとうと受け取ったリンゴ。一口かじってみて、そのリンゴはちょっと甘酸っぱかった。桜井くんの顔も、ほんのり赤く見えるのは、きっとこのリンゴの赤を見た後に見たからだ。

真っ赤な林檎と真っ赤な

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