短い話 | ナノ
トントン、ぐつぐつ。そんな音と一緒にいい匂いがしてきて、眠い目を擦りながら状態を起こした。ゆっくりとベッドから足を下ろして、フラフラな足取りでキッチンまで行くと、鍋の中を混ぜている大我くんがいた。私を見ると、ニカリと歯を見せて笑って顔洗ってこいよ、と言うからそのまま踵を返して脱衣所に向かう。冷たい水で顔を洗えば、少し眠いけれど、先ほどよりも目は冴えて。そっとリビングの椅子に腰を下ろすと、目の前にはおいしそうな朝ご飯が広がる。

「いつもごめんね?」
「ああ、別に気にすんなよ。いつも夕飯はお前が作ってくれんだし」

また笑う彼に、かっこいいなぁなんて思う。いただきます、と手を合わせた。温かくて、それでいておいしい。じっくりと味わいながら噛んでいれば、どうだ?と顔を覗き込んでくる彼に、おいしいです、と笑えば彼も嬉しそうに笑う。一口、また一口と口に運んでいけば、お皿の上にあった料理はキレイになくなっていて、ごちそうさまでした、とまた手を合わせる。

「あ、食器ぐらい私が洗うよ」
「いいよ別に」
「でも…。じゃ、じゃあ、手伝わせて?」

小首を傾げて、私よりも背の高い大我くんを見上げると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。きっとそれは、了承してくれたのだろう。薄いピンク色のエプロンを身に着けて、濃い赤色のエプロンを着けている大我くんの隣りに並んだ。がちゃがちゃと食器が合わされば、キッチンから遠い彼よりも、いくらか近い私の方にばかり水は飛んできて。その水を拭えば泡がついちゃって。何やってんだよ、と笑う大我くんに私も笑って、何してるんだろーね、と。

「終わったな。…よし、何処か出掛けようぜ」

シュルリとエプロンを取る彼にならって、私も外した。そうすれば、すぐに寝室の方へと向かって、服を着替える大我くんに驚いて後ろを向いた。や、やっぱり慣れないなぁ…なんて考えていれば、笑った声が聞こえて、もういいぞと言った。私も着替えようと思いクローゼットを開ける。これにしようかな。お気に入りの服を手に取って、服の裾に手を掛けた時に、大我くんがいることに気付いて急いで追い出すと、悪いと言いながら出た。もう、もっと早く気付いてよね、なんて。

「もういいか?」
「うん!で、どこに行く?」
「決めてない」
「え?」

取り敢えず、ブラブラしようぜ、と手を握られた。じわりじわりと彼の温もりが伝わってきて、握り返して、それもいいかな、なんて。

わがままな休日

1026
「アストロノート」さまに提出