短い話 | ナノ
最近の私の日課は、散歩をすること。そして、いつものベンチに座ってチューリップを見て、名前も知らない彼とお話をすること。
今日も空は晴れていて、最高のお散歩日和。家を出て、いつもの道を通っていつもの公園に行くと、すでに彼は来ていて、私に気づくとにこりと笑って手を振ってくれた。

「良かったです。今日も来てくれて」
「私も、きみがいて良かった」

名前なんて呼ばなくても、私たちは会話ができる。そのお話の内容は本当に他愛のない話で、飛行機雲を見たとか、タンポポを見たとか…。そんなちっぽけな話だったけれど、友達と話すときよりも盛り上がっている気がして、顔が綻ぶ。少し話しをすると、私たちはこのベンチをあとにする。また明日、とかそんな言葉は掛けずに手だけを振る。約束もしていないけれど、私たちはきっとまた明日会うんだろう。
軽くステップを踏みながら家に帰る私はきっと明日が楽しみで仕方がない。


「……あ、こんにちわ」
「あれ、えっと、髪の毛…」
「は、はい。友達に切ってもらいまして…」

変、ですか?そう言ってくるくると髪の毛を手で遊ばせた彼。私と同じくらいの長さまであった髪は、すごく短くなっていて、私の大学で同じクラスの男の子ぐらいまでなっていた。
似合ってる、かっこいいよ。そう言って笑って、彼の髪の毛を触ると顔を真っ赤にして俯きながらありがとうございます、と言った。

「でも、髪の毛切るなんて思い切ったことしたね」
「あ、はい。男として、見てほしい方が…い、て…」

また真っ赤な顔で言う彼。それは、好きな人?と聞くと戸惑いながらも何度も頷いた。やっぱり高校生は青春してるなぁ。なんて、おばさんくさいことを思ってしまう。好きな人なんて、もう何年もいないや。彼氏は出来ても、すぐ別れちゃうし。

「好きな人ってどんな子?」
「え、えっと…、僕より年上で、いつも一緒にチューリップを見てる方、です…」
「…え?」

名前さんのこと、ここで出会う前から好きでした。私の目を真っ直ぐと見ながら彼はそう言った。その目に見られている私の心臓はドキドキと早鐘を打っている。

春が来ました

僕の名前は、春と言います。そういった春くんは、私の手を握ってお付き合いをして下さいと真っ赤な顔をして大きな声で言った。春くんの赤い顔がうつったように、私の体温も高くなって、きっと今真っ赤になっている。よろしくお願いします、と呟いて春くんを見ると、にこりと笑顔を見せてはいと頷いた。

11/10/30