短い話 | ナノ
毎日の疲れるハードな練習を終えて、ほとんどが部室へと着替えに行く。けれど、私は体育館から動かずに、隅で膝を抱えて自主練をする彼らを見ていた。一人、また一人と消えていく。けど、宮地だけはずっと練習をしている。とうとう宮地一人になったけど、それでも終わる気配がない。私も帰らないでいた。中学の時から彼は自分にも人にも厳しくて、私だって注意されることはよくある。腹が立つ時だってあるけど、宮地の言うことは正しいし、そんな宮地のバスケが私は好きだ。

「…あ?何だお前、まだ帰ってねぇのかよ」
「戸締まりがあるの」
「ふーん」

そういうことは言うけど、帰れなんて言われたことは一度もない。一緒に戸締まりしてくれて、暗いからと家まで送ってくれる。

私は、そんな宮地が、好き。

くすり、と小さく笑っているとドリブルをする音が消えて、帰るか、と言うから立ち上がって窓やら色々な戸を閉める。それが終われば待ってろよ、と言って体育館内の部室へと消える宮地を待つために壁へと寄りかかった。
しばらくして制服を着て宮地が出てきて、戸に鍵をかけて職員室まで向かう。

「緑間は明日何を持ってくるのかな?」
「邪魔臭いものなのは分かる。今度轢いてやるか…」
「やめなよ。それに無免許じゃん」
「うるせぇ、刺すぞ」

もう、本当に物騒なんだから。くすくすと笑って言うと、鋭かった目つきが少し和らいだ。
職員室の前につくと、私が持っていた鍵を奪って返しに行ってくれる。ほんと、何気ない優しさが女の子を惹きつけるんだろうなぁ、と少し寂しくなる。
失礼しました、と礼をして出てくる宮地は行くぞ、と先を進んだ。私も急いでついていった。
外を出れば、すでに真っ暗で月がはっきりと見える。月がきれいだね、と呟けば驚いた顔をして私を見た宮地に首を傾げた。何でもねぇわ、とまた前を向くから不思議で自分の発言を思い返してみる。そこではっとした。

ある人物が説いた話で、英語の愛してるは、日本語で月が綺麗ですね、と言う意味だと。頭の良い宮地が知らないわけがない。かあっと赤くなる頬を隠すように俯いた。

やがて、私の家が近づいてきて、すぐにじゃあな、と去っていく彼を呼び止めた。
彼と私の差は3メートル。振り向いた宮地に、声に出さずに好き、と告げる。目を見開く彼が何かを言おうとしたので、すぐに家の中に入った。


口パクから伝えてみる

次の日は朝練があって、恥ずかしくて宮地を避けるように忙しく動き回った。それでも、どうしても目で追ってしまって、ばちりと目が合う。すぐ逸らそうと思ったけど、宮地の口がパクパクと動く。同じように動かすと、俺も好きだ、という風になった。恥ずかしいけど、嬉しくてへらりと情けない笑みを浮かべると、バーカ、とまた宮地が言ってその耳は赤かった。

0917
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