短い話 | ナノ
お風呂上がりに髪の毛を乾かすのも面倒でタオルを肩に掛けて、冷凍庫から取り出したアイスを食べながらソファーに座り徐にテレビのチャンネルを変えていた。まだ昼過ぎた3時では面白い番組もなくって、今度は録画溜めしていたものを見ようとしてテレビのリモコンとは違うリモコンを手に取った。

「また髪の毛乾かしてないのか?」
「…不法侵入」
「いつまで言うつもりだよ。もういいだろ」

当たり前のように私の家にいる伊月に、いつもと同じ言葉を返せば苦笑し、私の頭をタオルで少しばかり乱暴に拭く。痛い、て言っても聞いてくれない。
しゃく、と口の中にソーダ味のアイスが広がった。

「櫛持ってくるから待ってろよ」

私に聞かなくても場所が分かるってどういうことなんだ。最後の一口のアイスを食べて廊下につながる扉を見た。まだ戻ってこないみたいだからいっか。ソファーから降りて冷凍庫に向かい、また同じアイスを取る。袋から出してるときに伊月が戻ってきて、呆れた顔で何個食べるつもりだ?と言ったから、まだ2個目だし、と言う。

「ほら、座れ」
「ん、」

スー、と通っていく櫛が気持ちいい。録画していたドラマを再生して、アイスを一口。いつの間にか髪は乾いていて、伊月は私の隣に座っていた。そのアイスうまいか?と聞かれて頷く。だけど、その返事は気に入らないらしくもう一度聞かれた。今度はおいしいよ、と口で言えば俺にもくれよ、と言う。

「冷凍庫入って…、ねぇ、近いんだけど」
「くれるんだろ?」

にこり、と背筋がゾッとしそうな笑みを浮かべた伊月から逃げようとしたけど、それは間に合わなくて。伸びてきた大きな掌に目を瞑ってしまって。その手は私の後頭部を押して、目を瞑っている私は気がつけば伊月とキスしていた。熱くて、甘くて、くらくらして、とても長く感じられるキス。
やっと唇が離れた時、一発だけでも殴ってやろうと振り上げた手は簡単に掴まれる。

「本当だ。うまいな」
「バカ、アホ、変態」
「なんだよ。くれるって言ったのはお前だろ?」

ペロリと舌で唇を舐めるという動作をした伊月に怒りよりも恥ずかしさが勝って、顔を隠すように下を向いた。隠すなよ、って楽しそうに笑う伊月にもう一度バカと言ったけど、キレイな顔で笑われて、また唇を奪われた。

昼下がりのリップノイズ

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企画サイト「慈愛とうつつ」さまに提出