短い話 | ナノ
夕暮れの道を一人で帰っていた。長い長い影を踏むように足を一歩進めれば、影も進む。その繰り返し。
私とは違う影が後ろからのびて来て、立ち止まって振り返れば大輝くんが傍に立っていて、ぺちんと頭を叩かれた。

「いたい…」
「痛くしてんだから、あたりまえだ」

もう遅いだろ。怒ったように言ったあと、大輝くんは歯を見せて笑う。じっと大輝くんを見ていると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。ちょっと乱暴だけど、そこか優しい手のひら。全部を包んでくれそうな大きくて優しくて温かい手。
ぎゅっと、大輝くんの手を握ると、ちょっとだけ驚いた顔をする。それも気にせずに、その手を頬に寄せる。

「どうしたんだよ」
「ううん、何でもないよ」
「…」

大輝くんのもう一つの手が私を引き寄せる。ああ、好きだな。本当に。抱き締めながらそう思った。
私の安心できる場所。きっと、大輝くんが私のもとから離れる時、泣いちゃう。それぐらい好きなんだよ。

「だいすき」

ぽつりと呟いた私の言葉に、応えるようにキスをしてくれる。そっと、優しく。
唇が離れた時、名残惜しくてもう一度ねだるように服の袖を掴んで背伸びした。


愛しい人へのキス
(もっと)(もっともっと)(キスして)


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