短い話 | ナノ
部屋で雑誌を読んでいると、部屋の扉が突然開いた。そう思ってすぐに後ろから抱きつかれる。ふわり。匂ったことあるような香水の匂い。

「どうしたの?涼太」

黄瀬涼太。帝光中バスケ部キセキの世代でモデルでもある、私のお隣さん兼、幼なじみ。
すぐ人に抱きつくのが好きな涼太。ぎゅう。抱きつく力を強めて、首もとに顔をスリ寄せて来た。

「…っ、涼太!」

ちくり、走った痛みに青ざめた。まさか、そんなことするなんて思いもしなかった。
走った痛みのところを押さえて、涼太突き放した。顔を見れば難しそうな顔をしていた。どうしたの?怒る気にもなれず聞けば、ボソボソ、何か言った。

「え、なに?」
「幼なじみやめたいっス」

涼太の言葉に目が丸くなった。え?だって…え?訳が分からず混乱すると涼太は私を、今度は前から抱きしめてきた。
名前は、俺のなんス。誰にも渡したくない。そう言った。

「ね、なんでそんな話になるの…?」
「青峰っちと名前の噂を聞いたから」
「う、わさ?」

涼太が聞いた噂は、私が青峰と付き合ってるという噂らしい。確かに青峰とは仲がいいとは思うし、実際好きだ。たけど、その好きは恋とかじゃなくて、一人の友達として。涼太にそう伝えれば、心底安心したような顔をした。

「…でも、俺は幼なじみをやめたい」
「どうして…」

俺だって最初は、名前の幼なじみならずっとそばにいられる、って考えてた。まあ、今回のことは嘘だったスけど…。けど!いつか、名前は幼なじみの俺より大切なものを見つける。名前は俺から離れていく。だったら…!
そこまで言って涼太は止まった。

「幼なじみじゃなく、彼氏として名前のそばにいたいっス」

ぎゅうう。より一層、涼太の力が強くなる。ふるえてる。私もその背に腕を回して応えるように抱きしめた。


さよなら、幼なじみの僕ら

バカ、涼太より大切な人なんて現れるわけないじゃん。今日は、私たちが幼なじみじゃなくなった日。そして、恋人になった日。どちらからしたのかわからない。だけど、この触れるだけのキスが幸せだということだけは分かった。

0610