短い話 | ナノ
「…あの、」

月刊で読んでいた漫画がやっと単行本になって、発売された今日。どの本屋さんに行っても、それは売り切れで、やっと見つけた場所には最後の一冊だった。嬉しいことにも無傷で、傷なんか一つもない。さあ、レジに持っていってお金を払って家でじっくり読もう。そう思って、その本を手に持ち踵を返した時、目の前に同じクラスの浅羽祐希くんが立っていた。

そうして冒頭にもどる。

浅羽くんは私の目の前に立ち、退く気配もない。この通路は一本道で、後ろには道がなくて前に進むしか出来ない。だけど今、この一本しかない道を浅羽くんが塞いでいます。

「…それ」
「え、いや、これは最後のラストで…」

ごめんなさいと言って浅羽くんが立っている右側が少し空いていて、ぎりぎり通れるかもしれないと思って右に寄って進もうとすると浅羽くんも右に避けて道を塞いだ。
こ、この本を渡せと?…それは絶対に出来ない。今逃したらいつ買えるかも分からないし。



「…何してんの、祐希。邪魔でしょ」

沈黙が続く私たちのもとへ、浅羽くんの双子のお兄さんの浅羽悠太くんが登場して、私の前に立つ浅羽くんを避けさせて道を開けてくれた。ぺこりと頭を下げると、去り際にお兄さんが、ごめんね苗字さん、と言った。

え、どうして私の名前…。

振り替えると二人は話していて、振り返って見ている私に気付いていない。浅羽くんとは関わりなんて全然ないし、名前なんて知らないだろうと思っていたから、本当に驚いた。…でも、きっとたまたま分かったんだろう。そう思ってレジに向かった。

本屋できみと

次の日学校に行って自分の席に座っていると浅羽くんが声を掛けてきた。私の前の席に座って、昨日の本のお話をしだして、あまりにも共感できたから頷きながら自分の感想も話していると、浅羽くんはじっと私の顔を見て、ずっと話してみたかったんですよと言った。

11/10/29