短い話 | ナノ
ふう、と何度も一息つきながら先生に任された書類を持ちながら廊下を歩いた。この書類が結構重くて、大変。すると、ドタドタと後ろから音が聞こえて、人がこっちに走って来てるらしい。そっと右に避けてぶつからないように足を止めた。だけど、その人は普通にぶつかってきて、正直驚いた。
私、避けたつもりだったんだけどな…。と散らばる書類を見て、溜息一つ。

「ご、ごめん苗字!」
「…あ、うん。大丈夫だよ」

ぶつかってきた一十木くんは一生懸命散らばった書類を集めてくれた。
何か急いでたんじゃないの?と聞くと、え、と聞き返されて途端に顔を赤くした。

「だって、急いでたから私に気付かなかったんでしょ?」
「え、えっと……そ、そう!そうなんだ!」
「じゃあそっち優先した方がいいでしょ?私一人で大丈夫だよ」

そう言うと、全然急いでないから!と大きな声を出した。そうなんだ、と驚いて途切れ途切れに言うと、ごめんとまた大きな声で謝ってきた。そんなに気にしないでよ、と言って一十木くんの手から書類を受け取ろうとすると、俺も持ってく!とひょいと手を避けられた。そう…と言って二人で廊下を歩いて倉庫までついた。

「ここでいいの?」
「うん。ありがとう、助かった」

書類を置いて、もう用のないこの倉庫から出ようとドアノブに手を掛け引こうとした時、ガシャンとまた扉が閉まった。引っ張っても扉が重くて開かない。うそ、閉じ込められた?と不安になっていると、私の頭の少し上に手が伸びていて、それが扉を閉めていることに気付く。

「……あの、一十木くん?」
「ご、ごめん…、その…もう少し苗字と一緒に、いたくて…」

パッと一十木くんはそこから手をどけて、扉が軽くなった。少し暗い倉庫から明るい廊下に出て、じゃあ、と言って一人でどこかに行こうとする一十木くんの手を私は掴んだ。

遠回りもいいのかもしれない
(いいよ、じゃあカフェテリア行こう)
(え…え!ほ、本当に!?)
(うん、私も一十木くんと一緒にいたいし)
(お、俺さ…!苗字の、ことっ…)
(ん?)
(あ、いやまた今度言うよ…!)
(分かった。楽しみにしてる)

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