短い話 | ナノ
きっと俺は最初から気付いてた。おかしかったんでィ。こんな時期に人が入ってくるなんて、不自然だったんだ。だけど、寂しそうに笑うアイツの顔が、どうにも頭から離れなくてイラついた。笑うなら心の底から笑えよ。おかしいだろ、テメェがそんな顔して笑うのは。その笑みを壊して泣かせてやらァ。そこまで考えていた。だけど、アイツは泣きもしなくて、怒りもしなかった。いつものように、何するんですか、って笑うだけだった。理由なんか知るか。ただアイツはずっと笑ってた。

「テメェはこの状況でなんで泣いてるんでィ」

夜中に人の気配がして刀を取ろうとした、たった一瞬の隙に名前は俺の上に乗り刀を向けた。感情のない目で俺を見下ろす名前は、動いたら切りますと言ってすぐに涙を見せた。ぽたり、と俺の頬にそれが当たって初めて泣いてることに気付いた。顔を歪めることもせず、ただ自然に目から涙が零れ落ちているようだった。
おかしいだろ。こんな時に泣くのは。…こんな時まで笑うのは。

「おい」
「黙ってください」
「…テメェは何のために生きてる」
「何にも。ただ、息をしているだけです」

ああ、バカだコイツは。一瞬見せた悲しそうな顔に、何も意味がないわけない。沈黙が流れる中、ゆっくりと口を開いた名前は、沖田さんはと聞かれた。
ずいぶんと、野暮なことを聞くねィ。

「俺ァ、近藤さんのために生きてるんでィ」

ヒュ、と向けられた刀を弾くように自分の刀をすぐに手にし起き上がった。

俺は近藤さんのために生きてる。だから、簡単に死ぬわけにはいかねェんでさァ。大将の首は俺や土方さん、真選組のみんなで守ってるんでィ。テメェみたいな、ただ息をしてるような奴には簡単には潰されねェ。

向き合ったままそう言えば、ふふ、と笑った。その途端、爆音が響いた。真選組の塀が壊されたんだ。

「じゃあ、私は沖田さんのために生きます」
「敵が何を言ってるんでさァ」
「沖田さんの首を取るために。…高杉さんの首を守るために生きます」

それなら、また会えるでしょう?大きな月が妖しく笑う名前を照らした。


たとえ全てが偽りだったとしても

ああ、そうかィ。俺が言った言葉はたったの一言。だけど、なんだか妙に嬉しかった。ニヤリと上がった俺の口許を見た名前は消えた。それからドタドタと騒がしくなって、高杉が現れた、と山崎が言って回っていて近藤さんと土方さんが俺の部屋へと来て名前がいないと言った。どこに行ったんでしょうねィ、と俺が言うと土方さんは気付いたみたいで、とりあえず高杉を追いかけるぞ、と言った。

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thx:パッツン少女の初恋