短い話 | ナノ
信じらんない…。

ざあざあ、と降る雨に濡れながらヒールが折れた靴を手に持って歩いている私。朝、家をでるときは天気が良かったし、予報でも晴れって言ってた。なのに、どういうことよ。オシャレしてきた服はびしょ濡れで、ゆるく巻いた髪までもが台無し。おまけに私の気分まで。

「何やってんだよ。アホか?」
「……なによ、山口賢二」

突然現れた山口賢二は、傘を持っていて私を見下すように見る。そのまま無視して進んで行くけど、山口までついてくるものだから、ついてこないでと言うとお前が俺の行く方向にいるだけだ、と言った。なにこいつ、バカなの?ねえ、バカでしょ。…なんて、言うわけないんだけどね。

「お前、トミオが紹介してくれた奴とデートすんだろ」
「だからなに」
「……そいつ来ねえよ」

ピタリと足が止まる。ぐっ、と噛んだ下唇から血の味がする。

知ってるよ、そんなの。

そう言って振り返って山口を見れば、相変わらずいつも通りの顔で私を見る。あんたに言われなくても知ってる。だいたいあんたには関係ないじゃない。相変わらず振り続ける雨がどんどん私の気持ちをブルーにしていく。いつのまにか、目頭が熱くなって涙まででそうになる。泣いてもバレないよね、だって雨でびしょびしょだもん、私。

「帰るぞ」
「ちょ、やめてよ!」
「俺が風邪引くからさっさと来い」


雨で隠した一筋の涙

引っ張られてタクシーに乗せられて、そのタクシーが向かった場所は山口の家。親も伊代ちゃんもいない家は静かで、リビングに連れてこられた。タオルをだした山口は私の頭を拭いて、アホだろとまた言った。アホだよ、アホだから勘違いしちゃうんじゃない。優しくしないで、と山口の手を払おうとすると逆に手を掴まれて、本物のアホだろ、と無理やりキスをされた。


0316
お題:パッツン少女の初恋さま
題名どうしようか、と書いたあとに悩んでこのサイトを訪問させてもらったら、めちゃめちゃピッタリなのを見つけてしまい借りちゃいました。
ヤマケンのキスの意味は聞かないであげてね!察してあげてね!(←)