さわさわ、揺れたカーテンを手で払いのけて、イギリスはしゃがみこんだ。

ふと思い立って、合鍵で忍び込んだ勝手知ったる隣人の家。そこで見つけたのは、すやすやと静かな寝息を立てるいけ好かない家主。
ああもう、つまらない。イギリスはやれやれと溜め息をついた。

「…ばかひげ」

この俺がわざわざ来てやったのに、呑気に寝てんじゃねぇよ。
そう、決して起こさないように呟いて、イギリスはまじまじとフランスの顔を覗きこんだ。
身じろぎすらしない、怖いくらいに端整な顔。ぞくり、背筋に悪寒が走る。

「ッ起きろ、このワイン野郎…」

ほとんど願うように言って、振り上げたかけた拳を力なく下ろした。畜生。低く落とした言葉の真意は、イギリスにもわからない。
ただただ、怖い。それだけ。

「……なぁに泣いてんの」

いつの間にか霞んでしまった視界へと入り込んできた手に、イギリスはやっと顔を上げた。
そうして目が合ったフランスは、まだどこかぼんやりとした表情で首を傾げている。

「お前が、あんまり静かに寝てるから」

死んだかと、思った。
ぽつり、イギリスはそう言って、差し出された手を柔らかく掴んだ。まるでそこに体温があることを、確認するように。
そんなイギリスにフランスは肩を竦めて、苦笑する。

「怖かった?」

俺がいなくなったら、イギリスは悲しんでくれるかな。
そっと優しく、イギリスの冷たい頬を撫でて、問う。
その愚かな問いかけにイギリスはにんまりと笑った。まだ、涙の跡が残る顔で。
ばぁか。

「こんなの、嬉し泣きに決まってるだろ」

言って、フランスの手に自らの手を絡めるイギリスは、しかしまた俯いてしまう。
でも、でもな。

「お前が死んだら、俺が隙間風で凍えちまうから」

だから。
そこから先は続かなかった。いつもの意地っ張りが顔を出したのかもしれない。フランスは笑った。

「はいはい、坊ちゃん」

寒がりな坊ちゃんの為に、俺はずっとここにいてあげるよ。
言って口付けたフランスに、イギリスはすっかり安心したように目を閉じたのだった。



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