適温の体温が頬に触れる。それだけでイギリスの身体はまるで見えない鎖で縛られているかのようにぴたり、動くことをやめてしまうから。
ああ、もうこのポンコツめ。イギリスはぎりり、強く唇を噛み締めた。
背中合わせの恋だった。
いつだってお互いの顔色を伺うことなんてしなかったからこそ築くことのできたこの関係は、それなりに楽で、それなりに苦い。
だって、近くて遠い二人の距離が、相手を想うことさえ阻んでしまう。
「、触る…な」
ぱしんと軽い音を立てて振り払われた手に、フランスはむっとしてイギリスを睨む。
「なんで」
理由は?と冷ややかな目で問われて、イギリスはふっと笑う。それくらい何も、顔見なくたってわかるだろ、お隣さん?
そう、言いたげに。
「俺と、お前は、そんな甘ったるい関係じゃない」
愛したかったお前と、愛されたかった俺の利害が一致しただけ。それだけ。
イギリスはにんまりと笑う。どこか、悲しそうに。
「…俺は、そんな風に思ってないよ」
わかるでしょ?
言ったフランスは、焦れたように髪を乱暴にかき上げる。そんな粗暴な仕草、フランスには似合わない。そう思うのに。こんな余裕のないフランスを見ることができるのはきっと、イギリスだけなのだ。
ああ、もう、どうしようもなく愛おしい。
「お前はそうでも、俺は、そう思ってた」
それでも、言葉は想いを裏切る。
変質を恐れるイギリスは、どうしたって素直になれない。変われば、こうして会話することすら出来なくなるかもしれない。
「俺はお前のこと、そういう風に見たことなんてねぇよ」
心の中で流す涙。
見えないフリして、二人は今日も背中を合わせる。