なら仕方ないね、と笑った。
その裏側に隠れた涙に、気づかないフリをしていただけ。
好きだよ、とか、愛してる、とか。まるで売名のために書き下ろされた安っぽいラブソングみたいな愛を囁く奴だから、ずっとずっと嫌いだった。
殴り合ったその手で髪を撫で、スラングを吐いたその口でキスをする微温湯い関係。適温の空気が揺蕩う彼の隣はしかしとても心地よかったのだけれど。
蜜から蜜へ渡り歩く蝶のように、恋心を引っ掻き回すのが得意な彼の"ホントウ"は、きっと誰も知らないから。手を重ねても身体を重ねても心がいつだって重ならない不協和音。
「飽きた」
何でもないように装って、何でもないように取り繕って、ぽつり、落とした。ぴくりと頬が引き攣ったのが自分でも分かる。装いきれてないことも、取り繕いきれてないことも。だからきっとバレている。目敏い彼には、バレている。
それでも優しい彼は、フランスは、へにゃりと目尻を下げて笑った。
「そっか、飽きたんだ」
なら仕方ないね、うん。
言ったフランスは肩をわざとらしく竦めた。それが彼の、悲しみを表す数少ない仕草だってことくらい分かっていたけれど。
知りすぎて、近すぎて。進むことが、出来ない。
「じゃあ、」
くるり踵を返してドアに手をかける。かちゃりと拒絶するような音と共に部屋を出て行こうとして、一度だけ背後を振り返った。
坊ちゃん、と、涙色をした瞳が、俺を呼ぶ。
「愛してた、よ」
誰よりも、何よりも。
ふわりと笑ったフランスの声は、震えていた。
好きだよ、とか、愛してる、とか。まるで恋人への熱に浮かされたように囁く奴だから、ずっとずっと。
ずっとずっと、好きだった。