例えるならば、表面張力だ。
溢れるギリギリのところで止まっているから、気づかない。
少しの波紋で、それが溢れてしまうこと。

ガラス玉みたいな目がイギリスをじぃっと見つめていた。広がる大海原みたいな色をした瞳に自分が映っている。それだけで、視界がぼやけていってしまう。
呑みすぎたかな。顔が熱い。
保身の為の言い訳を胸の内で一つ落として、イギリスはきゅっと唇を結んだ。
とろり、濃密な空気がやけに重くて動きが鈍る。まるで、空気の中で溺れているみたいだ。口を開ければ苦しいから、閉じている。それだけのこと。
緩やかに、緩やかに、しかし、確実に死んでいく。

「坊ちゃん」

いいの。これで。
疑問符すらなしに問われて、イギリスはどうしようもなく泣きそうになった。
いいわけないだろ、ばか。とか、言いたいことは、いっぱいあったのだけれど。
それも、溺れて、口を開くと苦しいから、イギリスは言わないことに決めた。
頷くことも、首を振ることも止めたイギリスは、停滞よりも変化を望んだらしい。少なくとも、フランスにはそう見えた。

「知らないよ」

どうなっても。
そう言ったフランスに対して、イギリスは瞬きすらせずにフランスの目の中にいる自分だけを見つめていた。ぎしり、二人分の体重を乗せて、古いソファーが悲鳴を上げる。
何だかそれが、イギリスの、フランスの、心の叫びみたいで。

「…フランス」

呟くような呼びかけは、意図した訳でもないのに、物欲しそうに潤んでいた。熱に浮されたみたいに靄がかかる頭では、そんなこともわからない。
ああ、もう。苛ついたフランスの声が降ってきて、イギリスは目を瞬かせる。髪を掻き上げたフランスが、息がかかるほどの距離に、近づいて。

「酔いが覚めても、殴るなよ」

もうどうやったって、戻れないんだから。
重なる影。火傷しそうなくらい熱い唇。
溢れた想いは、止まらない。



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