ぱたり、髪から伝った滴が頬を濡らして、ああそれが、まるで泣いてるみたいだなんて。
――…なんてね。
嫌いだと言ったイギリスの唇は熱い吐息に彩られて、とても美味しそうだった。
アイヘイトユー。見事なクイーンズイングリッシュは、薄汚れた響きを含みながら、俺の舌に潜り込む。きっとこれは、致死量をとうに超えた猛毒で、そんで、許容量をゆうに超えた媚薬なんだろうね?お蔭さまで、ほらもう、熱くて仕方ない。何が?って、聞かなくても知ってる癖に。
「…ッ、ふ…くぅ…」
控え目に上がる声は何百年前と代わり映えしないのに、聞き飽きたりしない。変質しないものって、きっと、大切でしょ。特に、俺達みたいなのにはさ。
だから、やけに扇情的な抑えた声も、その熱に浮されたエメラルドの瞳も、豊富な憎まれ口だって。例えどれだけ時を経ても色褪せたりしない。
どころか、時を重ねるごとに、焦げ付いたみたいな胸はイギリスを求めて、止まなくなるのだ。ほんとに、なんて、狂った関係なのだろう。
「…アート」
愛してる、よ?
わざとらしく低い声で囁いてやると、びくりと背中が跳ねる。可哀相なくらい噛み締めた唇がわなわな震えているから、どうだろう、苦しいのか、悔しいのか、悲しいのか。どうにも判断出来ないけれど、そのどれでもあるようで、そのどれにも当て嵌まらないような気がした。
頑なな唇がゆっくりとほどけて、生理的に流れた涙を拭う。
嘘つき。言ったイギリスの瞳は、見えない。
「俺は、お前なんか大っ嫌いだ」
死んじまえ。ばか。
痛いみたいな響きを持って俺の耳に届けられる罵倒は、なんだか、自分に言い聞かせてるみたいに聞こえた。ああそう、うん。お兄さんもね、お前のこと大っ嫌い。
ぽつり呟いて、イギリスの口を塞ぐ。だけど、だけどね。
「…嘘つき」
嘘つき。俺も、お前も。