簡素で、しかして高価なはずのテーブルの上に鎮座していた紙切れに、イギリスは困り果てたように頭を掻いた。
例えるならばそれは、子供の食べ残しを見つけてしまった時の母親のような、『またか』と『呆れた』が入り混じった――そして、それにちょっとだけ喜びの色を足したような、複雑で奇異な表情。
イギリスはその紙切れの、悪戯に残されたメッセージの中身を嫌というほど知っている。

「Excuse-moi」

イギリスはその単純な謝辞を読み上げて、嘆息した。
酒に呑まれて始まったこの関係を後悔しているのだろうか。身体を重ねる度にこうして謝る色男は、それでもイギリスを囲うことをやめないのだけれど。
イギリスは無論、こうして謝られることがあまり好きではない。でも同時に、少しだけ安心もする。
その謝罪を見れば、また次があるかもしれないと、愛の国である彼、フランスのお零れをまた頂戴出来るかもしれないと、思えるのだから。
そしてその予想は、もう何世紀と外れたことがないのだ。

(せめてお得意の「C'ert pas ma faute!」くらい言えねぇのか)

イギリスだって、フランスにだって、わかっているのだ。
誰が悪い訳では、ないのだと。もし誰かが悪いと定義するならば、フランスとイギリス、そのどちらともが悪いのだと。
だから、フランスが謝るのは、お門違いなのだ。それくらいわからない二人ではない。そのはず、なのに。

「……Please excuse my behavior」

小さな声で呟いて、イギリスは唇を噛んだ。
胸に押し込めた切ない想いを伝えるにはもう、そのタイミングを逸してしまったのだと思う。月並みだけれど、壊したくない。イギリスは臆病で、フランスもきっと、酷く臆病なのだ。
ぬるまゆい関係に慣れてしまったから、もうそこから抜け出すことが、出来ない。

(ダメだって、わかっているんだ)

このままじゃ、きっといつか。

(終わりがきてしまう)

イギリスは座り込む。だって、嫌というほど知っているのだ。
例え終わりがきたとして。
フランスが「Excuse-moi」だけで全て済ませてしまうことくらい。




++++++++++++++++++
「Excuse-moi」はイム語でごめんなさい。
「C'ert pas ma faute!」はイム語で俺は悪くない!
「Please excuse my behavior」はどうか許して下さい。
因みに兄ちゃん家の人は「C'ert pas ma faute!」、よく言うらしいですよww


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